君と共に紡ぐ調べ

       第7章 名定マル刻 −6−

本文へジャンプ




「紅龍と桜龍と黄龍は三つ子なんだよねぇ。

 それぞれ関連ある名前がいいなあ。」

慧がぼそりと呟きながら言った。


それぞれの龍が本格的に龍としての子育てに入った為

小龍ともあまり会うことはできないので慧は基本的に暇である。

しかも、蒼龍の医師達には過度な運動を禁じられているので

運動もできない。


「うーーーん・・・・。そうだ。」



慧は小さな引き出しから筆と硯を出し、

紙を広げると日本語を書き出した。


「小学生の時は習字の時間大嫌いだったのになあ。」

ナバラーンの生活も長くなると日本語も話す機会がない。

でも、自分を20歳まで育んで来たのは異世界である地球であり

故郷である日本だ。


だからせめて忘れないように、こうして時間があると書を書いたり、

昔習ったことを書き出したり、

向こうの世界のスケッチを描いたりするようになった。




慧がまず書いた字は炎。紅龍のイメージだ。

「紅龍は、火だよね・・・ああ・・・そう言えば

 昔、火の悪魔が出ていたアニメあったなあ・・・あの悪魔の名前

 なんだったけ・・・

 妙に可愛かったんだよなあ・・・・

 ルシファーじゃないし・・・う・・・ん思いだせないなあ・・・。」

とにかく、悪魔の名前にはならないようである。




次に「華」

「桜龍って花を咲かせる龍だからなあ・・・。

 元々龍で生まれてきた当主は龍化できて当たり前なんだなあ。

 ということはニコライはすごいんだなあ。

 まさか、花子とかにはできないよなあ・・・

 確か・・昔絵本で象の花子の話読んだなあ。

 思い出したら、悲しくなった。」


慧はそう言いながら、手の甲で目をごしごしと拭った。

命を宿してから感受性が豊かになっているらしく

涙もろくなっているのだ。




息を整えて「金」

「でも黄龍って『きん』というより『かね』ってイメージなんだよね。

 うーーん・・・。それじゃかっこ悪いなあ。

 金って言えば時代劇の「お代官様・・・これでよしなに・・。」

 「おぬしも悪よのう。」ってイメージだもんな。」

慧はここでブルブル首を振った。




後ろでクツクツと笑い声が聞こえた。

「リューゼ!!」

慧は赤くなりながら振り返った。


「暇しているのかと思ったら1人で面白そうなことをやっている。」

「ど・・どこから聞いていたの?」

「ルシファーのとこから・・・。」

「うそ・・・声かけてくれると良いのに・・・。」

慧はすねたように言った。




「ところで、慧。気負わないで、何か話をしているうちに

 浮かんでくるのではないのかな?」

お茶を楽しみながらリューゼが言った。


「確かにバルドルの時は、急に名前が浮かんできたよ。」



「ちなみに紅龍・桜龍・黄龍にはどんな当主になってほしいかね。」

「うーーん。紅龍は、闘龍だから強くなると思うんだけど

 誠実な当主になって欲しい。

 桜龍は緑と花を愛する祈りの龍。

 全ての人の幸せを願い努力する当主になってほしい。

 黄龍は人と人を結ぶ龍。つまり人と龍。龍と龍も結ぶ龍。

 全ての人を愛し結ぶ当主になって欲しい。」

「そうだな。それで・・・?」



リューゼは穏やかに微笑みながら聞いた。

その微笑みは威厳ある龍王の微笑みだ。



「紅龍はアレス・桜龍はクロノス・黄龍はヘルメス」

「ギリシャ神話か・・・?」

「さすが、異世界では小説家だよね。」


「まあ、龍星は私の思念の1つではあったが、

 確かに私の中にいるからな。

 そして、ナバラーンの言葉では、

 アレスは、広い心を意味している。」

「うん。そして、クロノスは原動力とも言うね。

 祈りだけでなく行動も出来る当主になってほしい祈りも込めて。

 ヘルメスは、平等、平和という意味がある。」

「ナバラーンの輝かしい未来の為の名だ。

 素晴らしい。さすがは我が妃だ。」

リューゼはそう言いながら慧を抱き寄せた。


こうして三つ子の名前は城内で決まった。



INDEX BACK NEXT 

 Copyright(c) 2007-2010 Jua Kagami all rights reserved.