君と共に紡ぐ調べ

       第7章 名定マル刻 −5−

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「そうやって悩んでいても良い名前が浮かばないのではないか?」

机を前にウンウン考え込んでいる慧にリューゼがそう言った。

「だって・・・名前って難しい。」

慧は口を尖らせて言った。


「少し気分を変えたらどうだ?」

「リューゼの気分転換は、俺が疲れるからだめ。

 それにまだ、腰痛いし・・・。」

慧がピシャリと言った。言うときは言うのだ。


「そうだな・・・。昨日は少し無理をさせたな。

 久しぶりに、散歩でもしないか?」

「うん。そうしよう。じゃあ、俺用意する。」

慧はそう言いながら寝室の方へ走っていった。


「慧・・走るな。」

リューゼは慧の小さな背中にあわてて声をかけた。





「・・・・リューゼ・・・散歩するって言ったのに・・・。」

慧はリューゼの背でそう言いながら頬を膨らませた。


・・・・散歩だろう?・・・・

リューゼの声が直接頭に響く。


「散歩って・・・空の散歩のつもりなかったのに。」

慧はビュービュー吹いてくる風に負けないようにリューゼの背にしがみつきながら言った。





しばらく飛んで、リューゼが降りたところは慧も知っている所だった。

蒼龍の国、アシュタラの中のファティモという森の中の湖のほとりだ。

「ここ・・・。」

慧は人型になったリューゼをみあげて言った。



「そうだ。慧の始めての土地だ。」

「うん。この湖に落ちたところをファルが助けてくれたんだ。

 目が覚めたら体が小さくなって驚いたなあ。

 だって、向こうの世界だと20歳超えていたのに、ここじゃ5歳だよ。

 言葉も通じなかったし、大変だったなあ。

 リューゼ、森の中散歩していいかな?」

慧は手を差し出して言った。

リューゼはその小さな手をぎゅっと握りながら頷いた。


2人は、慧がナバラーンに来たとき数ヶ月を過ごした、ファティモの森の小屋の方へ

歩いていった。



ファティモの森は当主の一族でなければ入ることができない森で、

一族の男はこの森で薬草を探して薬を作り、国中を無料で施術して歩く。

その修行を乗り越えて、蒼龍の当主に初めて医師として認められるのだ。



慧がナバラーンに来たとき、ファルはまさにその修行の最中だった。

共に暮らした時、年に数ヶ月はここの小屋で生活していたので、愛着は深い。


「まだ、蒼龍の誰かがここで修行しているんだね。

 中が綺麗になっている。」

慧は、中を覗きながら言った。


人は住んでいないようだが中は綺麗に整理されていた。

慧は暖炉の近くに置かれた、いびつな小さな椅子を指差して言った。


「あの椅子、ファルが作ってくれたんだ。

 ファルは器用そうに見えるけど、木工は滅茶苦茶苦手でね。

 それでも一生懸命作ってくれたんだ。嬉しかったな。」

慧はそう言いながら懐かしそうに目を細めた。



「慧・・・私は・・・あの時、夢でいつも君を見ていた。

 でも、見ているだけだった。

 一緒にこうしてここにいれる日が来るとはあの時考えることすらできなかったな。」

少し寂しそうに言うリューゼに慧は抱きつきながら言った。


「でも、今は一緒だよ。もう離れることはない。」

「ああ、そうだな。この辺を案内してくれるか?」

慧はにっこりと微笑みながらうなずきながら言った。


「うん。でもリューゼ。会いたかったのは俺も一緒だったよ。」

2人はそのまま湖のほとりや森の中を散策した。





「あっ・・・。」

「どうした。慧?」

「今・・・ふと名前・・浮かんだ。」

「そうか・・・。」


「うん。ここって、向こうの世界の北欧の雰囲気だなって思ったんだ。

 俺は行ったことないけれどね。

 それで、北欧って言えば神話があったなあ・・・って・・・

 俺、向こうの友達の家でその神話をベースにしたゲームがあって

 それをやってみて興味を持って本を読んだんだ。

 それでとても好きになった神があったんだ。

 その名前が浮かんだよ。」


「どんな名前かな?」

「バルドル。光の神なんだ。

 ナバラーンの言葉では、智徳という意味だよね。

 だから、蒼龍のおちびさんの名前にしようかなと思って。」

「光・・・か。この世界を照らす蒼き智の光になって欲しいものだな。」

リューゼはそう言いながら慧の肩をぎゅっと抱きしめた。




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