君と共に紡ぐ調べ

       第7章 名定マル刻 −3−

本文へジャンプ




たくさんの花、そして温かな空間に紫色の龍の姿がある。

他の龍は大きくて人の何倍もしくは何十倍もあるが

紫龍は小さな龍で人が横になって浮かんだくらいの大きさである。



急に当主であるルネが音を奏で始めた。

「ルルルルルルルル・・・。」

それ自体が鳴き声ではなく音楽に聞こえる。

その音に合わせるようにもうルイが

「ルルルルルルルルル・・・・」

と音を奏で、体を九の字に曲げる。



その姿はやはり苦しそうだ。

目から涙がポロポロと零れている。

ルネは、翼を広げ動かしてルイに心地の良い風がいくようにした。

苦しんでいるわが子を前にそれくらいしか出来ないことが

とても歯がゆく思うルネであった。





慧はリューゼとともにいつもの闇の空間にいた。

体調は少しは良くなったがまだ全快していない。

それでも、紫龍の魂が通るこの空間にどうしても来たいと

思った。



目が慣れてくると、小さな音とともに

淡い紫の玉が現れた。

♪〜〜〜〜♪〜〜〜〜

可愛らしいメロディを奏でながら玉はくるくる動いて踊る。

・・・待っているよ・・・

慧がそう言うと、玉は嬉しそうに飛び、リューゼと慧の周りを数回まわると

光の向こうに消えた。

・・・良かった・・・

慧は安心したようにそっと息をついた。

その華奢な肩をリューゼが優しく抱きしめた。




ルイは涙を零しながら力むと「ルルルル・・・・♪」と鳴きながら

小龍が産まれた。

ルネはルイに体を摺り寄せて・・・よくやった・・・と労った。





王城から、祝いの祝砲があげられた。

これでナバラーン中の者が次期当主の誕生を知った。

それから王城には、いろいろなところから祝いの品が届けられた。

ナバラーンの民は、仕事を休み

次代の当主達の為に祝杯をあげた。




ルイは安産だったが、今までの無理がたたって、慧はしばらく寝たままの生活を送っていた。

「いいなあ。リューゼは元気で・・・。」

そう言う慧にリューゼは優しく微笑み、背中にクッションを入れて上半身を起こすと

産宮の部屋の窓を開けた。



「クリューーー。」

「キューン。」

「ガルルルルル・・・・。」

「グオォオオオ・・・。」

「ゴォォォォーーー。」

「シャーャーーー。」

「ヒューン・・・。」

「ルルルルル・・・。」

鳴き声と一緒に窓いっぱいに小龍たちが見えた。


「わあ!!」

慧は嬉しそうに微笑んだ。

「早く元気になって一緒に遊んでやると良い。」

リューゼのその言葉に慧は何度も頷いて答えた。




元々体力が無い上に華奢な上に、全ての銀の龍の出産と共鳴をして

体力を無くした慧が体調を戻すには

かなりの時が必要だった。

薬湯を飲んで、リュークに癒しの術をかけてもらいながら

数週間安静に過ごしても、ようやく寝台から自分で起きあがれるくらいの

力しかなかった。



紫龍が産まれて1月が過ぎた頃になりリューゼにつかまりながら

窓の傍まで歩いていき、窓のすぐ外まで来た

小龍達の背を撫でることができた。


慧は嬉しそうに闇龍、翠龍、白龍、紫龍の背を撫で、

撫でる順番のせいで喧嘩している紅龍と黄龍を見て

微笑んだ。


おとなしくしている、蒼龍と桜龍の小龍を撫でると、


「ほら、喧嘩している小龍は撫でてあげないよ。」

と言うと、紅龍と黄龍は喧嘩をやめて猫のように

慧に擦り寄ってきて、頭を下げて「撫でて。撫でて。」というように

首を振った。


その仕草が可愛くて、慧は優しく紅龍と黄龍の小龍の頭を交互に撫でてやった。

「可愛いな。」

リューゼも慧を後ろから支えながらそう呟いた。

「うん・・・・。幸せってこういうことだよね。」

慧はそう言いながらにっこりと微笑んだ。





INDEX BACK NEXT 

 Copyright(c) 2007-2010 Jua Kagami all rights reserved.