君と共に紡ぐ調べ

       第7章 名定マル刻 −2−

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翠龍の産宮の部屋は青い海がある。

ここは、結界になっていて

海に砂浜そして、日の光がさんさんと当たっている。


海の中には2頭の龍の姿が見える。

アハドとイツァークの姿だ。

アハドは、「シャーャアアーーー。」と鳴きながら

海中を潜る。


苦しいのか、アハドの目から涙が零れその涙が海水と混ざり

真珠のようにキラキラ輝きながら結晶化して海底へ落ちる。

イツァークは、その結晶を海底で拾う。

この結晶が翠龍の小龍に必要だからだ。




慧とリューゼはいつもの空間にいた。

翠の玉がピョンピョン飛んで

慧とリューゼの回りを一回転すると

声も掛けないうちにまっすぐに光の中に溶けていった。



・・・翠龍は、すごく元気そうだね。・・・

慧は嬉しそうにリューゼを見あげながら言った。



その時、急に白い玉が現れる。

・・・・ココドコ・・・・?・・・

・・・・あの光りの向こうで待っている。・・・・

リューゼが優しく言った。

・・・うん。待っているよ。・・・

慧もそう言うと白い玉は少し揺れながら

姿を消した。

リューゼがその白い玉の方に手を翳し

力を少し放った。



慧が不思議そうに見あげると

・・・いや、少し元気が無さそうだったからな。・・・

とリューゼは心配そうに言った。




その頃、白龍の産宮では苦しくて鳴き声すらあげれない、

サイシュンがうずくまっていた。

その背中をリンエイが尾で叩く。


白龍は光のなかで産まれる。

その出産は光の中飛びあがりながら産むと言うハードな方法だ。

しかし、飛ぶ為には身体を強く折り曲げないといけない。


サイシュンは、以前人型の状態で刺青を入れられ、

龍になるとそれが鎖かたびらのような銀色の模様が身体を覆う。

身重で体を折り曲げるのが辛いサイシュンは飛びあがりたくても

体が曲がらずにうずくまってしまうのだ。


リンエイは、しばらくサイシュンの様子を見ていたが

何とかしなくてはいけないと考え、龍のままサイシュンを背中に背負い、

渾身の力をこめて飛びあがった。

サイシュンはその反動を利用して自分も飛びあがり

ポトンと落とすように小さめな白龍を産むと、自分も力尽き果てて

地面に落ちた。


リンエイは、白龍の小龍を咥えると丁寧に舐めて汚れを取ってあげた。

蒼龍の医師たちが様子を見て何人も入って来て、小龍とサイシュンを診察した。

まだ、小さい小龍は龍の保育器に入って入院することになり、

サイシュンは癒しの術を掛けられて眠り続けている。




その少し前、翠龍の産宮では元気な鳴き声をあげながら、

翠龍が産まれた。

早速、気持ちよさそうに海水を泳いでいる。

アハドもイツァークも安心したように小龍の傍を泳いでいる。




白龍の出産のことを聞いた、リュークは人型になって

慌てて慧が休んでいる部屋に入っていった。


寝台に寝ている慧の顔は真っ白だ。

リュークはすぐに癒しの術を使い始めた。

それからしばらくして、リューゼが覚醒して目を覚ました。



「白龍か・・・?」

どうやら、リューゼは一瞬で事態を把握したらしい。

「ええ。白龍の銀龍、サイシュンは難産で、今も癒しの術を受けております。

 ケイはもろに銀の龍の影響を受けているようなので、見に参りました。」

リュークがそう言うと、リューゼも起きあがり、手を慧に翳して

力を送った。



城中の者が、サイシュンと小龍のために祈りを捧げた。

その甲斐あってかサイシュンと小龍は日に日に良くなっていった。



しかし慧は目を覚まさなかった。

元々、体が弱かった上にサイシュンと共鳴し体が悲鳴をあげたらしい。

リューゼは、慧とおなかの子供のために傍にいて少しずつ力を注いでいた。


リューゼが慧のいる部屋を中庭の結界と結んだので、

日に数度、小龍達や銀の龍が窓から心配そうに慧を覗き込むようになった。


慧は、1月あまりそのまま眠り続け、目を覚ました。

憔悴しきったリューゼとリュークを不思議そうにみつめる。

「どうしたの?リューゼ?」

慧がそう言って手を差し伸べると、リューゼはその手を握り締めて

ほっとしたように息をついた。

城が再び微笑みで溢れた瞬間だった。




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