君と共に紡ぐ調べ

       第6章 命ノヨロコビ −3−

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「痛・・・い。」慧は銀色の針を置きながら

手を押さえた。


針で指を突いたみたいで紅い血が玉になっている。

「それでも、頑張らなきゃ。」

慧は血を舐めてからおぼつかない手でせっせと針を

進ませた。


そばには、ルイがいて針を動かしている。

ルイの卵は成長が遅いようでおなかも大きくはない。



ルイは手が器用で縫い物もすいすい進める。

しかし、慧は裁縫は苦手でなかなか進まない。



それでも、慧は生まれてくる命に何かをしてあげたかった。

だから、子供用の毛布に可愛い刺繍をすることにした。

刺繍初体験の慧は侍女にやり方を習ってルイとともにせっせと

刺繍をしているのだ。



「初めから、こんなに凝った模様やめればよかったかな?」

慧はそう言いながら溜息をつくとルイは笑いながら言った。


慧が描いた図案はナバラーンのいろいろな風景の上を

飛ぶ龍なのだ。

龍を慧が刺繍して、その他の景色をルイが刺繍している。


「慧でも苦手なのあるんだね。僕、ほっとしちゃったよ。」

「傷を縫うのは得意なんだけどね・・・。」

「それは・・違うと思うよ。」


2人は、話しながらせっせと針を進ませた。



「何をやっているんだ?」

おなかの大きなアハドと付き添うイツァークが部屋に入ってきた。


「うん・・・ほら、産まれてくる赤ちゃんに何かしたくて

 毛布に刺繍しているんだよ。」

慧は、そう言いながら蒼い龍の刺繍を見せた。



「俺もやろうかな・・・こんな腹じゃ歩き回れないし・・・。」

アハドは椅子に座るとルイにやり方を聞き、

黄龍の毛布に刺繍をはじめた。

イツァークも別の毛布を手に手伝う。


「へぇ・・・上手・・。」慧が意外そうに言うとイツァークが何事も無さそうに言った。

「ほら、翠龍は海の龍だから皆船を持っているからこういう作業は慣れているんだよ。」

「いいなあ。あ〜〜〜いらいらする!!」

慧が言うと皆が笑った。




「そう言えば、ジークとアル、明日にでも産宮に移るそうだよ。」

イツァークが言うと慧は驚いたように言った。

「えっ?アルが・・だってアル一番最後に卵、宿したのに?」

慧が驚いて言うとアハドが口を開いた。


「元々、紅龍は生命力が強いからな。

 それに、ガイが野望を捨てていないらしい。」

「困ったものだよ。」イツァークも苦笑しながらそう言う。



「その野望って何?」

「紅龍を長男にするっていう野望だよ。

 そのせいで、アルは薬湯やら虫の炒ったものやら

 変なものをたくさん飲まされたらしい。」

そこにいる者は顔を見合わせてアルに同情した。

なぜか、魔王よろしく大きな口を開けて笑うガイの顔が浮かんだ。




それから数日後の夕食の時、ルネが慧を見て言った。

「ケイ・・顔が赤い。熱があるんじゃないか?」


ルイが慧の額に手を当てて言った。

「ケイ、熱があると思う。寝たほうが良いよ。」

イツァークが慧のそばに来て、慧を軽々と抱き上げて

寝室に連れて行くと、知らせを聞いた慧を担当している

蒼龍が部屋に入って来て診察した。


熱が微熱だったので、薬湯を飲んでベッドに横になった。

慧が熱を出すことはしばしばあるので、蒼龍も慧を休ませる為に部屋を出た。



リューゼが寝室に戻って来ると、慧は目を覚まして

お帰りなさいを言った。

リューゼは慧の額にキスをして、慧の横に身を滑らせた。

「大丈夫か?苦しくないか?」

そう言いながらひんやりした手で慧の額を触る。


リューゼの力で慧の体に冷気を送ることはたやすいが

今は慧のおなかに卵があるので控えている。


「うん・・・大丈夫だよ。」

慧はリューゼに擦り寄りながらそう言った。

リューゼは慧を軽く抱きしめると目を閉じた。





「うっ。」

夜中、リューゼは慧の呻き声で目を開いた。

慧は苦しそうに肩で息をしている。

「慧・・・大丈夫か?」

大声で言うリューゼに寝室の隣で控えていた蒼龍が

バタバタ走ってきた。

「うーーーっ。」

慧は九の字になりながら苦しさで呻くことしかできなかった。




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