君と共に紡ぐ調べ

       第5章 育(ハグク)ム命 −5−

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「ふふふっ。」慧は嬉しそうに鼻歌を歌って歩いていた。

昨夜は、早く眠ったので、リューゼに抱かれることも無かったから

体もだいぶ楽なのだ。


それに!!久しぶりの街は活気があって楽しい。

「しかし・・・あれが無ければもっと楽しいんだけど。」

慧は肩をすくめながら、店の奥に丁寧に飾られた聖像をみて言った。


この聖像とは、慧がリューゼに抱かれているところをモチーフにした像なのである。

この聖像や聖画は神様と崇められ、どこの店にも飾られているのだ。


「救いは、リューゼも私もそう似ていないことだよな。」


慧は、頭を振りながら雑貨屋に入って行った。

「お客さん、何かお探しですか?」店のおかみさんが慧に話しかけた。

「友達の結婚祝いに何か欲しいんだけど、どんなものを贈るとよいのですか?」


「一番人気は、やっぱり聖像・・・か・・・」

「聖像や聖画以外でお願いします。」

慧は、おかみさんの言葉を遮って鬼気迫る勢いで言った。

「あ・・・ああ、ほら新婚さんなら鍋セットとかもあるよ。」

おかみさんは慧の勢いに押されてそう答えた。



「じゃあ、それ見せてください。ラッピングもしてもらえますか?」

慧はそう言いながら店の中を見渡した。





「ファル、ケイはどこにいる?」

城の中をリュークがファルの部屋に入って来ながら言った。


「ケイ?朝からみておりませんよ。」

ファルは不思議そうな顔をして本を閉じ立ちあがった。

「おかしいなあ。いろいろ探してみたのですが・・・。

 まあ、昨日も元気でしたしねぇ。

 王城の書庫にも篭っているのかな?」

リュークがそう言うと、ファルははっとした顔をして立ちあがった。


「ファル・・・どうした?」

「リューク、嫌な予感がする。。

 龍王の執務室に行きましょう。」

ファルは、そう言うと部屋を出て龍王の執務室へ足早に向かった。





慧は、上機嫌でラッピングされた荷物を持って

歩いていた。

「えっと・・結婚式はエドワードの家でやるんだよねえ。

 確か、この辺なんだよなあ。

 招待状持っていなくても何とかなるかなあ。」

慧はそう言いながら、きょろきょろしながら

道を歩いていた。


「あっ。ここだ。ここだ。」

慧はそう言いながら、呼び鈴を鳴らした。

ドアを開けたのは、エドワードの養子で慧の補佐として働いているユナで

慧の顔を見て驚いた顔をして固まった。


「りゅ・・・・龍妃様?お城は・・・?」

「抜け出しちゃった。入っていい?」

慧はにっこりと微笑んで言った。





ファルとリュークが執務室に行くと、リューゼは

会議が終わってちょうど部屋に帰ってきたところだった。


「どうした?」

「龍王様。龍妃様がいらっしゃらないのです。」

リュークがそう言うとリューゼは眉間に皺を寄せた。


「わかった。ちょっと探る。」

龍王は、ナバラーン中を見ることをできる能力を持っている。

もっとも、その能力を妻の為に使うのはいささかおかしいのだが・・・。


リューゼは、目を閉じて慧の気配を追った。

「これは・・・城ではないな・・・。

 抜け出したということか・・・?

 まあ、それでも気が穏やかだから危険な感じではないな。」


「龍王様、それでも龍妃様は御体を大切になさらなくてはならない時。

 何かあってからでは・・・。」


リュークが心配そうに言うとファルも怒りに口を開いた。

「本当に、城を抜け出して、何かあったら困ります。

 龍王様がしっかりと妃様を繋ぎとめないからこうなるのですよ。」


「蒼の銀龍?本当に繋ぎとめてよいのだな。」


「ええ。とにかく、護衛もつけないで街になどでれないようにしてください。」

「ほう・・・わかった。」


リューゼはニヤリと微笑むと、机に向かって

書類のサインをはじめながら言った。


「この仕事が終わったら早速妃を迎えに行く。

 何、気配は仕事をしながらでも探れる。」

妙にうきうきした様子のリューゼにリュークは嫌な予感を感じて

小さく身震いをした。



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