君と共に紡ぐ調べ

       第5章 育(ハグク)ム命 −4−

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「やっぱり、お腹の子には胎教が必要なんじゃないの?」

慧が急にそんな話をし始めたとき、

ファルが不思議そうに首を傾げた。


「その胎教って何ですか?」

「ああ。人間のおなかの赤ちゃんは母体に宿った時から

 お母さんの中で外の音を聞くっていう話なんだ。

 だから、早いうちから、良い音楽や本を読み聞かせると

 赤ちゃんに良いとされているんだ。」


慧自身、地球でも一人っ子だったので、持っている知識はこんなものである。


「それは面白い話ですね。

 じゃあ、定期的に歌を歌ったり合奏すると良いですね。

 でも、私たちの場合は卵なのであんまりこうお腹の中から

 反応は無いのですがね。」

そう言いながら、ファルは優しく腹を撫でた。



ファルが受卵してから早1年が経った。

3か月に1回の割合で卵を産む形になった慧が

産んだ卵の数は全部で4つ、ファル・ニコライ・アハド・サイシュンの

おなかの中で慧の卵はすくすくと育っている。


慧のおなかの中でも新たな卵が育っている。

ファルは、この1年で新たな薬を開発したので、

銀の龍たちの受卵はファルのときほど大変ではなくなり、

慧も産むごとに拒絶反応が軽くなっている。



今は、ファルやアルも公的な仕事を人に任せているので

一日中聖離宮にいる。

だから、それぞれがゆったりとした時の中で

おおらかに生活を楽しんでいる。



リューゼも慧に感応する銀の龍が多くなるにつれ、

昼間に慧を抱くことを控えるようになった。



しかし、夜のリューゼはそれはそれは情熱的で

朝まで慧を寝かせないので、その影響を銀の龍も受ける。

ファルがそれを緩和させる薬を発明したが、

効く時間は数時間なので、結局数時間は快感に

身を委ねることになる。



その間、必ずその龍の傍に他の銀の龍や父親ではない当主が

ついて、抱きしめたり愛撫することによって孤独感を感じないように

気を配っていた。



それにより、銀の龍達は受卵した後も

その現象を当たり前のように受け止めることができるように

なっていた。



金の龍であるリューゼの性欲は、子供を為すこの期間が

とても強くなるのが自然なようで、子作りが何よりも大切だと

リューゼが力説したので、

銀の龍達も感応することを慧に伝えていない。


大概、銀の龍達が伏せている時は慧も伏せているので

今のところ、特には問題はない。


慧も自分の体調の変化に慣れ、今は簡単な公務を少しだけ

こなしている。




「手紙だ。」

ジークが、手紙の束を何束か持って来て差し出した。

私的な手紙なので、故郷がない慧にはめったにこない。


でも、今日はジークの手に1通の慧宛の手紙が握られていた。


「私に?」驚いたように慧はジークを見あげながら

手紙を受け取った。


「メリッサからだ。」


メリッサと言うのは、慧が王城に初めて来た時から仕えてくれた

侍女だ。今はあまり会えないが侍女長として王城で働いている。


慧は、メリッサの手紙を読み始めて嬉しそうに微笑んだ。

「メリッサ、結婚するって。相手はエドワード!

 来週結婚式あげるんだあ。」

エドワードも慧が王城に来たときから仕えてくれている。


慧の顔を見て、周りの銀の龍は一斉に言った。

「いけませんよ。ケイ。」



「私・・まだ何も言っていないよ。」

慧は頬を膨らませながら言う。


「だって、その後に、私も行く。お忍びで。ってつくのだろう?」

アハドがすかさず言う。


「ちっ。」慧は行儀悪く舌打ちをすると、ニコライが

「ケイ様。」と言って嗜めた。


「だめですよ。たまに視察や謁見に立ち会うのと違いますからね。」

ファルがピシャリと言うと「わかりました。」と慧は肩をすくめて言った。



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