君と共に紡ぐ調べ

       第5章 育(ハグク)ム命 −2−

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次の日、目が覚めたファルは、

自分の手を握ったまま眠っているジークとベッドの周りで雑魚寝を

している銀の龍達を見て微笑んだ。


昨夜のことは、おぼろげながら記憶がある。

ファルは、そっと自分の腹を撫でた。

「ここにいるのですね。」


自分の愛するべき人、慧の卵がここにある。

そう思うだけで、不思議と優しい気持ちになれた。


「あっ。ファル?大丈夫?」

ルイががばっと起きて言った。

他の銀の龍も次々と起きて次々と声を掛けてくる。


普通の龍のように愛する人をこの手で抱くことはできない。

しかし、愛するべき人から命を託され、

こうして、心配してくれる銀の龍達がいる。



ファルの頬を透明な雫が何筋も流れた。

「ファル・・痛いのか?」

ジークが心配気にファルの顔を覗き込む。


ファルは、微笑みながら首を振って言った。

「幸せを噛みしめてるのですよ。

 銀の龍で本当に良かった。」






その2日後、リューゼは以前と同じように

ぐったりとして指すら動かすことができない慧を抱きかかえ、

宮に戻ってきた。


慧と反対にリューゼは生気がみなぎり、仕事も精力的にこなしている。

慧は微熱を出してベッドに伏せていた。

リュークの話では、見事に卵が慧の中にいるそうだ。


銀の龍達は相変わらず仕事以外は慧の世話を焼いた。

ファルは、他の銀の為に薬の改良をしている。

何でも、体に害の無い睡眠薬と痛み止めの薬を配合しているらしい。

しかし、ファル自身の仕事も引き継ぎが進んでいないので

午後は、王城の方に行き会議や引継ぎの仕事をしている。






慧がようやく起きれるようになって、

リュークのお墨付きをもらった午後もファルは

王城で会議に出席していた。


自分の発言を終え、椅子に座ったファルを

せつない疼きが包んだ。

「あっ・・・・。」


皆がファルの方を見るのをファルはわざと咳き込んで

ごまかした。


「何だか、急に暑くなりました。」

そう言いながら、上席にいるリュークの方を見た。

何ともいえない快感がファルを包む。

「くっ・・・・。」


隣にいた蒼龍がファルの火照った顔を見て、

「大丈夫ですか?」と聞いた。

ファルは深呼吸をして、どうにか切り抜けようとした。






その頃・・・聖離宮では



「あ・・・・ん・・・リューゼ・・・・。」

「んっ・・・?ここか?」

「もう・・・・だめぇ・・・・。一緒に・・・」


お墨付きをもらったと聞いたリューゼが慧を抱いていた。

何しろ、数日振りだから2人とも激しい。






「ふっ・・・・。」

ファルは、苦しそうに肩で息をしていた。


そこで、はじめてリュークがファルの異変に気づいて駆け寄った。

「当主様?ファル様は・・・?」

リュークは、ファルの様子を見て事態を把握したように頷いた。


「皆、ファルは今、次期当主の卵を守っている。

 その・・・これは、つわりみたいなものだ。」

「つ・・つわりですか?」

蒼龍は、医師の集団である。でも、ファルの様子を見ていると

一時も早く部屋に連れていった方が良いように思う。



「あ・・・・っ。」

ファルの目から涙がこぼれ、とても扇情的な顔をしているので

見ている蒼龍たちも頬が紅く染まっている。


「とにかく、次期当主の大切な御身だ。離宮に戻る。」


リュークがファルに肩を貸して、部屋の外に出る。

「はぁあああ・・・・ん。」

ファルは、腰にきているらしく足もふらふらだ。

リュークとファルは体型が似ているので抱き上げることもできない。


その時、廊下の向こうから大柄な紅い髪が近づいてきた。



「どうした?ファル?随分色っぽい顔してるなあ。」

そう言うガイにリュークが言った。

「ファルは、龍王様達に感応しているようなのです。」

「ちっ。わかった。」

ガイは舌打ちを打つと、ファルのそばに来てファルを軽々と

抱き上げ、聖離宮へと走った。


「今まで、ここまで感応するという記述はあまりなかったはずだが・・・。」

リュークが2人を追いながらそう呟いた。




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