君と共に紡ぐ調べ

       第4章 金ノ卵 −4−

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「え・・・・えええ・・・・。さ・・・産卵?」

慧は、大きな声でそう言いながら積みあげられたクッションに

もたれかかった。


「ケイ、あんまり興奮してはいけないですよ。」

ファルはそう言いながら、慧の髪を優しく撫でた。

「リューク、ごめんなさい。あまりにも考えていたことと違って・・・。」

蒼の魔術や医術を知っている慧は、出産についての

一般的な知識を知っていた。

しかし、リュークの口から語られたことは

あまりにも衝撃的で、驚かずにはいられなかったのだ。


「ケイ、あなたは龍王様があなたの中で目的を持って放たれた時、

 体が変わり、卵室ができ性器と卵室が繋がりました。

 そして、私達、銀の龍も薬によってあなたと同じ体になったのです。」


「ファルも?」

「ええ。いつでもケイの卵を受け入れられるようになっているのです。

 実は、私も出産の話を聞いて困惑を覚えました。

 でも、卵は1つの命、そしてケイが作った命なんです。

 だから、私はケイの作った命を繋ぐために薬を飲んだのですよ。」

「命を繋ぐ・・・。命?」


知らず知らずの内に慧は自分のおなかに手をやった。

「ケイ、診察してよいですか?」リュークがそう言うと慧はコクリと頷いた。


リュークは慧に手を翳すと蒼い光が出て慧の体を覆った。

「「「あっ」」」3人は思わず小さな声をあげた。

慧の下腹部から小さな金色の光が見えたのだ。



慧の目からポロポロ涙がこぼれた。

「リューク・・・ここに命が?」

リュークは、にっこりと微笑むと頷いて言った。

「龍妃様、おめでとうございます。

 新しい命に祝福を・・・。」

慧は、泣きながら微笑んで頷いた。



リュークの話を聞いたとき、パニックで頭がおかしくなりそうだった。

それでも、自分の中に命が宿ったことを知った時、

溢れ出た感情は、感謝と愛おしさだった。




リューゼは、政務を終え宮に戻り、寝室を覗くと、

慧はベッドの上ですやすや眠っていた。


リューゼは慧の額にキスを落とすと、起こさないように

皆の待つ居間に行った。


「龍王様、おめでとうございます。」

皆が口々に祝福の言葉を掛ける。


「ありがとう。それで、リューク、慧の調子は?」

「微熱がありますが卵が定着するまでは安静になさると大丈夫です。

 2、3日で定着します。それまで性交は避けてください。」


「わかった。それで、皆に頼みがある。」

リューゼは皆を見まわして言った。



「慧にとって龍妃という立場は戸惑いも多い。

 そしてこれからは、いままでしたことがない体験をする。

 まあ、それは、銀の龍も一緒だが。

 それで、この宮だけでは、敬語も身分の上下も無しにしようと思う。

 銀の龍達も、不安なことはたくさんあるだろう。

 だから、不安になったら誰でも頼るんだぞ。」


銀の龍達は嬉しそうにうなずいた。

確かに、初めての経験に銀の龍達も不安になっていたのだった。



「何でも、お父さん達に頼りなさい。」

ガイが冗談めかして言うとすかさずロベルトが口を挟む。

「間違ってもガイには相談しねーよな。

 めちゃめちゃ短気なくせに。」

「なにお〜〜!!」

そう言うガイを見て皆が笑う。



銀の龍達にとって、当主達は父と言えどもちょっと遠い存在だった。


一夫多妻のせいもあるが、実際自分達の国の運営もある

当主達はなかなか忙しいのだ。


2人きりで数年暮らしていて、自分の父には慣れた銀の龍だが

他の当主達にはやはり気後れを感じる。


しかし、皆で暮らし始めて当主達の中にもちゃんとしたポジションが

あることがわかってきた。



しっかり者の蒼龍のリュークに、盛り上げ担当、紅龍のガイと黄龍のロベルト

それを嗜める桜龍イアン、さりげなく庇う闇龍のフェル、

その姿を見て笑っている翠龍のイツァークに白龍のリンエイ。

しょげた者を慰めるルネ。


その姿が父達の素の姿だと思うと何だか微笑ましくて、

出産への不安はあるのだが、皆で協力すると大丈夫かなと思えてしまう

銀の龍達であった。



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