君と共に紡ぐ調べ

       第3章 過酷ナ3日間 −6−

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慧とルネとルイは、発声練習をすると

小曲を数曲歌い始めた。


3人で歌うとき、ルネはバリトンを担当し、ルイはテノール、

慧はカウンターテノールで歌う。


これには訳があって慧は大きな声で地声で歌うと

鳥や動物が集まって来てしまう。

慧は知らないが、羽目をはずして

お酒を飲んで歌を歌うと大変なことになったことも数度ある。


だから、慧はルネとルイから独特の発声法を習い

高い声を出すことを学んだ。

元々の声も体に数々の無理を重ねた結果、あまり低くなく中性的なので

むしろその発声法の歌声の方が慧らしく聞こえるのである。


一方、昔はボーイソプラノを歌っていたルイは

変声期を経て、テノールを歌うようになった。

聴いている人は、3人のあまりの美声に言葉を失っていた。



3人は目を合わせると、ナバラーンの地を祝福する歌を歌いはじめた。

これは、ナバラーンの国歌を作ろうとしたルネが

あまりにも難易度が高い歌を作ってしまい、リューゼに却下された歌だ。

しかし、旋律があまりにも美しいので慧がルネに頼んで

自分達が歌えるように作ってもらったのだ。




歌っている内に、慧の体が金色に光り始めそれに反応するように

紫色の石が数個慧の体に入ってきたと思ったら、今度は紫色の石が慧の手から浮きあがり

亀裂が入って割れると、さっき石がでてきた場所に

消えていった。




その瞬間、慧の頭の中には美しい旋律や美しい色がめぐり、

美しいナバラーンの風景がたくさん映し出された。


・・・ああ。そうだったのか。・・・


慧はそれを見て紫龍の隠された役割を知った。



ちょうど、歌が終わったので、慧は自分の感じたままを

メロディにのせて歌い始めた。




紫龍、このナバラーンで一番小さく弱い龍。

それは、紫の髪の心優しき青年の願い。


強さではなく、頭の良さでなく、

魔力ではなく、信仰でなく、商売ではなく、

海や風でなく、公平さでない方法で

このナバラーンを愛し続けたいという願い。


龍王がナバラーンを治め、

誰かがナバラーンを剣で守り、

誰かがナバラーンの発展を考え、

誰かがナバラーンの生死や海・風を司り、

誰かがナバラーンの為に祈り、

誰かがナバラーンに財を築き、

誰かがナバラーンに法を整える時。

一番劣っている自分は何をすべきか。


それなら、ナバラーンを讃えよう。

私の手で描くのはナバラーンを讃える詩や絵画。

私の手で作るのはナバラーンの彫刻。

私が奏でる音楽はナバラーンの民が喜ぶ曲。

私の口から生まれるのはナバラーンの歌。


そして、その気持ちを皆に伝え、幸せをわかちあおう。


紫龍が龍王に貰った力、それはナバラーンを讃える力。

皆に幸せを運ぶ力、皆の幸せを結ぶ力。

その力が溢れたとき、ナバラーンは本当に幸せに溢れるだろう。




慧が歌い終わると、ルネとルイが変装を解いて跪き、

全ての人が平伏した。


歌っているうちに慧の髪の毛と目が黒く戻ったからだ。


「龍妃様、私はこれまで、非力な紫龍に劣等感を持っていました。

 しかし、今の歌でこの弱さに誇りを持たなくてはならないと思いました。

 私の力の及ぶ限り、紫龍は紫龍の為すべきことを果たしましょう。」


ルネがそう言うと、そこにいる人全員が大きく拍手をして、

ナバラーンの歌を歌い始めた。




数刻後、北の森の端に2人の男の影があった。

闇龍のフェルとジークだ。

南の空から紫色の龍が現れ、人型になって、

腕の中で寝入っている慧をそっとフェルに渡した。



フェルは慧の顔を見て驚いたように言った。

「やつれていないか?」


確かに慧の頬は少しこけ、目の下には薄っすら隈がある。


・・・パワースポットめぐりをしたはずなのに、なぜ?・・・


闇龍親子の無言の問いにルネは事情を説明すると

フェルとジークは別れを告げて北の空に消えた。


ルネは、闇龍の姿が見えなくなるとルイに言った。

「パワースポットに戻って個室で休もうか?」

「そうだね。眠いよ・・・。」


紫龍親子は龍になると心なしかフラフラとした感じで

再び南に向けて飛んだ。



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