君と共に紡ぐ調べ

       第3章 過酷ナ3日間 −5−

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ルネが固まっているのも気づかずに慧は

ルイの手を握って大部屋と書いているほうへ進んだ。


そこは薄暗い廊下になっていて正面にかすかな灯りが見えた。

そちらに行くとカウンターがあり紫龍がいささか面倒そうに

タオルと冷たい水の入った竹筒を渡した。



2人は、そこでルネが追いつくのを待った。

ルネは来ると、慧に

「本当に大部屋で大丈夫か?」と聞いた。

「わからないけれど、楽しそうでしょ?」慧はにこやかに言うと

「じゃあ、ルイも慧も魔術使って少し人相を変えなきゃいけない。」

とルネは言い、自分も魔術を使って少し年齢を増やした。



ルネもルイもそして、髪の色だけは変えているが慧も

ナバラーンでは知らない人がいないほどの有名人なのだ。

ルイも慧も頷いて魔術を使って人相を変えた。



ルネは、2人を見て頷いて目の前のドアを大きく開けた。

すると、蒸気が顔にかかり、歌声と手拍子が聞こえた。

ルイはクスクス笑いながらぎゅっと慧の手を握った。

「ようこそ。ケイ、ここが紫龍のパワースポットだよ。」




「うわぁ。」

中に入った慧は驚いたように回りを見渡した。

そこは、大部屋というよりも大きな洞窟の1つで



蒸気が立ち込め、花の香りで満ち溢れていた。

そして、壁には、素晴らしい彫刻が彫られていた。

「これは、見事・・・だな。」

ルネも感心したように呟いた。


洞窟はとても広かったので、3人は歌声が聞こえる

奥の方へと歩いて行った。

奥の方には何人もの紫龍がそれぞれ石でできたベンチに座ったり

眠ったりしている。



中には歌を歌っているものや隅の方で彫刻をしている者もいる。


取り合えず慧達は空いているベンチに腰をおろした。



すると、近くにいた紫龍が慧に話しかけてきた。

「あんた方、ここ初めてなのかい?」

「え〜〜。何で初めてなのわかるの?」

慧は不思議そうに言うと紫龍の女は笑いながら言った。

「だって、あんた方、なんにも持ってないもの。

 何回かここに来る人は、果物やら果実水

 こうして持って来るんだよ。」


女は、箱の蓋を開けて見せるとそこには

冷蔵石と共に果物や果実水がぎっしりと入っていた。



「初めてなら、一刻に一度売り子が来るから

 それから買うしかないねえ。

 でも、冷たいタオルは貸してやるよ。」

女はそう言って慧に微笑んだ。



その時、小さな子が来て女に言った。

「母さん、じゅっちゅ・・・・。」

女は「はいはい。」と返事をして果実水を女の子にあげる。



ルイが「お子さんは、どの道に進むのですか?」

と聞くと女は首を振って言った。


「うちはね。子沢山だからねぇ。

 才能を見てもらうにはお金がかかるから

 まだ、見せていないんだよ。」



紫龍は、芸術に秀でている龍である。

だから幼少に時期に高位の龍に子供を見せ、

進むべき道を定め練習するのが常である。



その時期は概ね、3歳程なのだが

英才教育を受ける貴族などは1歳の誕生日には

もう道を定め練習を重ねるのである。



「才能を見るのに金がかかるのか?」

ルネは驚いたように女に聞くと女は頷いて言った。



「ああ。金が掛かるし、才能を見極めてもらった後は

 教師料がかかる。基本だけでも習うには金が掛かるから

 貧乏人は神官や別の職業に付くものも多いのさ。

 私もそうだけどね。今回も父ちゃんと私の給金を貯めて

 こうして、皆でここに来て、一緒に歌ったり踊ったりするのが

 紫龍としての残された楽しみなのさ。」



「子供達の才能を見て祝福を与えるのに金を取る?

 馬鹿な・・・。おい女、私が子供達の才能を見る。

 ルイも手伝え。ケイ、祝福を与えてくれるか。」

「はい。父上。」ルイもベンチにきちんと座りなおす。

「もちろん。」慧もベンチに座りなおした。



女の子供達が目の前に並ぶとその様子を見ていたものが

自分の子供も見てほしいとルネに頼み、ルネとルイの前には

列ができあがった。



才能は見てもらったが祝福はされたことがないというものも

慧の前に列をなし、慧は手を翳して祝福を与えた。

さすがに紫龍のパワースポットなので力は湧いてくるが

与える量も多かった。





数時間後、ルネは頭を抱えていた。

隣で、慧もルイもぐったりしている。



才能を見てくれた礼だと、紫龍達が歌や踊りを披露する。

目の前には、果実水やお菓子や果物等のお裾分けがうずたかく積まれている。



まさか寝入るわけにもいかないので、3人は頑張って起きていた。

一区切りつくと、夜が明ける時間になっていた。



その時、そのうちの1人がルネにおそるおそる言った。

「できたら、才能を見てくださった皆様の歌を聞かせて戴きたいのですが・・・。」

ルネが返事をする前に慧が立ちあがって言った。

「ルネ。ルイ。歌おう。」

ルネもルイも同じく立ちあがる。



実は心の中で3人とも


・・・何かやらないと眠くてどうにもならない。・・・


と考えているのであった。




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