君と共に紡ぐ調べ

       第2章 紅イ宝石ヲ護る獣 −1−

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「おちびちゃん、肉獲って来たぞ!!」

ガイが嬉しそうに大きな山鳥を差し出した。



「すごーい。ガイ。」

慧はにこにこ笑いながら小さく手を叩いた。



「俺さばくよ。」

アルがガイから山鳥を受け取りテントの外に出た。



「疲れたか?ケイ?」

ガイはテントにあった椅子に座り、

慧をひょいっと抱きあげた。

「昼寝したから大丈夫だよ。」

本当に体力の無さはおこちゃま並みだと慧は苦笑しながら思った。



朝早く起こされ、紅龍の国であるシャードファイアの

ある街まで馬車で来て、それからはガイとアルと一緒に

山の中を歩いた。



ガイもアルも大きなテントや荷物を持っているにも関わらず

息を切らすこともなく山を登っていくが慧はすぐに息が切れ、

何回も休憩を入れなくてはなかった。



テントもガイとアルが張ってくれ、慧はその中で昼寝をしている最中も

ガイは狩りに出かけ、アルは火を熾したりしていた。



「ごめんねぇ。ガイ。俺あんまり役にたたなくて。」

慧は眉を下げてそう言うとガイの大きな笑い声がテントに響いた。

「おちびちゃん、皆が元気なら俺達はここに来なくても良くなるんだよ。

 特に、紅龍のパワースポットは病人や怪我人が行くものだと

 決まっているようなものなんだ。

 だから、病弱な息子の役があったほうが良いし、それに、

 ケイがいるだけで、ほら・・・。」



ガイが指を指した先に籠が置いてあり、絶え間なく小鳥達が

良く熟れた果実や木の実を籠に落としている。



「あーー、皆ありがとうねぇ。」

慧が小鳥達に礼を言うと鳥達は嬉しそうにテントの中を

1回転して外に出て行った。


慧は、金の龍に祝福された存在なので、ナバラーンの動物や植物に

敬愛されていて、知能が高い動物とは話すこともできるのだ。



「ガイ連れてきてくれてありがとうね。」

慧はガイを見あげながら言った。


「ああ。それに城の生活はちーっと窮屈だろう。」

「うん。皆良くしてくれるのはわかるし、リューゼもいるけれど

 何だか少し寂しかったんだ。」

ガイは頷きながら言った。


「ああ、城では俺でも敬語だからな。

 どうしても距離ができてしまうんだよな。

 でも、俺はいつもケイのことおちびだと思っているぜ。」

ガイはそう言いながら慧の紅く染まった頭を撫でた。

慧は嬉しそうにコクリと頷いた。



慧の生活で一番大きく変わったのは、人の接し方であった。

龍王と龍妃は常に人に見られている存在だ。

なので、寝室以外の空間ではめったにくだけた口調で話すこともできない状態だ。


当主達や銀の龍も以前のような砕けた口調ではなく

敬語で接する。それが慧にはとてもさみしく感じていた。

今回も馬車を降りるまではガイとアルも敬語で接していたが

3人になると昔のように砕けた口調に変わったのだった。



龍妃という身分を明かさないということなので、

今回は、弟の慧が病弱で心配した父ガイと兄アルが

パワースポットに連れて行くという設定になっている。



「鳥は血抜きしているから夜には食べれる。」

アルがテントに入ってきながら言った。

「アル。ありがとう。」

慧が振り返って言うとアルも嬉しそうに微笑んだ。


城の生活で距離を感じて寂しさを感じているのは

アルも同じだ。

だから、こうしてリラックスしてガイの膝にちょこんと座っている慧は

とても可愛くて近しく感じる。



「でも、ガイとアルすごく逞しいよね。」

慧が感心したように言うと2人は目を見合わせて微笑んだ。

「そりゃあ、4年も2人きりでこんな生活すると

 狩りも上手になるだろう?」

「ええ。あれは貴重な4年間だった。」



この親子は何年もいがみあって生きてきた。

それが4年間もの間2人で生きていくことにより、

お互いを尊敬しあい硬い絆で結ばれたのだ。



慧は明日からの旅もきっと楽しくなりそうだと

嬉しそうに微笑んだ。



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