君と共に紡ぐ調べ

       第1章 君ト紡グ日常 −4−

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慧がお茶を飲んでいる頃、龍王は執務室の隣の部屋で

龍の当主達と会っていた。


蒼龍のリューク、紅龍のガイ、黄龍のロベルト、

翠龍のイツァーク、桜龍のイアン、白龍のリンエイ、

闇龍のフェル、紫龍のルネ

この者達がこのナバラーンの八種類の龍達を

束ねている。


「龍王様、改まって我々を呼んだのはなぜですか?」

リュークが聞いた。


龍王は、侍従や側近を全て部屋から出し、部屋の声が漏れないように

結界を張った。

「兄さん、私の話を聞いてくれないか?」

当主達は驚いたように龍王の顔を見た。



龍王に即位してから、この弟は自分達のことを兄と呼ばなくなった。

それは、龍王という大きな職務に対する責任の為かと

思い、龍王に従っていたがなんだか寂しく感じていた。



「リューゼ、どうしたんだ?」ロベルトが言う。

「これからする話を知っているのは慧だけだ。

 慧に会わなかったら、私はこの話をずっと隠し通すつもりでいた。」


「リューゼ、まさか?」イアンが驚いた口調で言った。

「私は愛しい妃を娶ることが出来た。

 慧が城やこの暮らしに慣れるまではこのままの暮らしになるだろうが

 じきに、子を成さねばいけないだろう。

 その時、我々もその子供達を育てる責任がでてくる。

 今の時期だから、この話をせねばと思ったのだ。」

当主達は心配そうに龍王を見つめた。



「私は、前龍王から産まれた存在。

 だから、私に母はいないのだ。」

「リューゼ、どういうことだ?」ガイが驚いたように聞いた。



リューゼは淡々と話始めた。

前龍王と妃は政略結婚させられたこと。

龍王は、結婚してから絆を深めると良いと考えていた。

しかし、妃は違った。

銀の龍の1人紫龍に恋をしていた。

紫龍に恋をしていた妃は紫龍に薬を飲ませベッドに連れ込んだところを

妃を慕う紅龍に見つかった。


紅龍は、それを紫龍のせいだと思い、紫龍を殺そうと剣を構えた。

それを見た妃はナイトテーブルの中の短剣を紅龍に

突き立て、紅龍を殺し紫龍に熱い口付けを落とした。」


「それで・・・妃は消滅したのですか・・・。」震える声でルネが言った。

「そうだ。結婚の誓いを違え、妃は消滅、銀の龍も消滅し、

 そこに卵だけが残った。

 それで、先代の当主達がその卵を守り、

 私は、龍王の力で産み出された。

 それでも、私は龍王になるには力が足りなかった。

 だから、前龍王は王座を下りるとき私に自分の力全てを

 注ぎ、ナバラーンの塵となった。」



「だから、前当主様達の遺骸がないのだな。」イツァークが言った。

「リューゼ、なぜ?」フェルが聞いた。

「前王も私もそうだが、そのような妃でも兄さん達の親だ。

 だから、事実は語らなかった。」

「じゃあ、前の当主達も全ては知らなかったのですね。」



リンエイが聞くとリューゼは黙って頷いた。

リュークは、リューゼのそばに行くとぎゅっとリューゼを抱きしめた。



「リュ・・・ーク。」

「ごめんね。リューゼ。

 私達は兄だと言いながらもずっとリューゼに守られていたんだね。」


「でも、俺は見たことのない母親よりもリューゼの方が大切だ。

 いいか、リューゼ。俺らはお前と運命を共にするんだぞ。

 遠慮するな。」

ロベルトが朗らかに言った。



皆がリューゼにあたたかい言葉をかけた。



この中には、その真実を話さないからこそ

歪んだ考えを持った者がいた。

全ての快楽的な音楽や芸術を追放した紫龍当主 ルネ、

紅龍は強くなくてはいけないと多くの者を

虐殺した紅龍当主ガイ。



その歪みを正したのは龍妃である慧だ。

リューゼは心の中で慧に感謝しながら、ようやく自分の親の

事件が一区切りついたことを感じた。




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