君と共に紡ぐ調べ

       第1章 君ト紡グ日常 −2−

本文へジャンプ




城の廊下を金色の髪の男が歩いてくる。

その男の背はとても高く、目の色は琥珀色のような色で

光に当たると金色に見える。

体もほんのり金色の光に包まれツカツカと背をしゃんと伸ばして

歩いている姿は威厳に満ちている。

この男、ナバラーンの龍王のリューゼと言う。



リューゼは、立派な扉を開け、中に足を踏み入れた。

寝台の上に黒い髪の男がポツンと座っている。

リューゼの方を見あげて驚いたように目を見張る。

「リューゼ?仕事・・・?」

「仕事より、愛しの慧が落ち込んでいるほうが重要だ。」


リューゼはそう言いながら、慧の横に座ると

そっと慧の肩を抱き寄せ、片手で頭を撫で始めた。



「忘れていたのが悪いのかもしれないけれど・・・

 今朝からすごく恥ずかしかったんだ。」

「恥ずかしかった・・・って?」

リューゼは不思議そうな顔をした。

「ごめん。リューゼ。今日こっそりと街に出たんだ。」

慧はそう言うと話しはじめた。





・・・数時間前・・・

「久しぶりだなあ。」

人の城から、久しぶりに街へ出た慧は嬉しそうに周りを見渡した。

龍妃としてのトレードマークでもある黒髪、黒い目は

紫龍の魔術で茶髪に茶色の目に変えている。

高価な服も以前街で買った、庶民が着るような服だ。



「ふふふっ。まずは市場でも見ようかな。」

以前から、ちょくちょく城を抜け出している慧は

迷いもせずに、街で一番大きな市場に向かった。


龍王の直轄地であるナバラデルトは、元々龍の居住区と人の居住区が

分かれていたが、龍王と龍妃の結婚を機にお互いの街を自由に行き来できるように

なった。だから、人の街であったここにも龍族の者が普通に歩いている。

市場でも同様で、龍の者と人が仲よさそうに歓談をしていたり、

黄龍が露店を出して、珍しい菓子などを売っている姿も見れた。



「うん・・なんか嬉しいな。」慧はそう言って市場の中に入っていった。

いつものように野菜や魚や肉の店を見て

雑貨の店に来たとき、慧は声を掛けられた。



「お兄さん、お兄さん。もう、聖画持ってるかい?」

「聖画?」

慧は不思議そうに首を傾げた。

「お兄さん、今すごく出ているのに聖画知らないのかい。」

声を掛けたおばさんが信じられないように言った。

「聖画・・・って?」

「まあ、とにかく、入って見た見た。

 うちは、この市場でも一番の品揃えを誇っているんだ。」

 聖像も揃えている店はそうはないんだよ。」

おばさんは自慢げに言うと店の前の幕を開けて慧を中に入れた。



そこには、何人かの人がいて熱心に絵を見ている。

慧は、そこにあった絵を見ると驚きのあまりに固まった。



「なななな・・・んで?」



そこには、黒い髪をした男に金の龍がのしかかっている絵や像が

あった。


「さすがにお兄さんでも今上龍王と龍妃様は知っているだろう?」

さっきのおばさんが言った。

まさか本人だとも言えない慧は小さく頷いた。


「今までの聖画の龍妃様は、皆おびえた顔をしていたからねえ。

 だから、人は龍が怖いんだと思っていたんだよ。

 でも、今の龍妃様は私達に教えてくれたんだ。

 ほら、どの絵も今の龍妃様は自ら龍王様の首に腕を巻きつけているだろう。

 そして、本当に嬉しそうな顔をなさっている。」

人に見られているなんて、今の今まで忘れていたなんて

慧は言えずに理性を総動員して平静を装った。

「龍妃様のおかげで、制度も変わって我々も商売がしやすくなった。

 だから、今上龍王様と龍妃様の聖画と聖像は我々の守り神なんだよ。」

「そう・・・?あっ・・・今日お金持って無いから。」

慧はそう言うとその店を出たのだが・・・。

それから、行く店行く店でよく見ると、その聖画や聖像が飾られているのだった。






「・・・リューゼ・・あれは羞恥以外の何ものでも無かったよ。」

リューゼは優しく慧の頭を撫でながら言った。

「すまない。慧・・・。私は知っていたのだが・・・。」

リューゼはすまなさそうに眉を下げた。

「ううん。リューゼ。そんな顔しないで。

 ほら、俺も気にしないようにするから。

 俺は大丈夫。」

慧はそう言いながらリューゼにキスをした。



「慧・・少し休んでいると良い。」

リューゼは名残惜しそうに慧の体を離した。

「ごめん。仕事中に・・・でも、恥ずかしいのはリューゼも一緒だよね。」

慧はそう言いながら微笑んだ。

リューゼは、慧を寝台に横たえると布団を掛け

癒しの魔法を掛けて慧を眠らせた。





そのまま、廊下に出て城の宝物庫の1つのドアを開ける。

そこには、先ほど慧が見たという聖画や聖像が置かれていた。

ナバラーンでは、龍王と花嫁が結ばれた証として

龍王が花嫁の中で達する寸前の数分の画像が

水に映る。


ただし、龍王は人型でなく龍の形で現れる。

人々はそれを見て、龍王が選んだ龍妃がどのような人か知るのだ。

そして、芸術に長けた者が絵や像を作り

一番良い出来のものを城に献上する。

しかし、今までの龍妃はおびえた顔が水に映っていたので

献上の品はとても少ない。


それ以上に、龍王が人型でなく龍の姿で現れるので

単純に考えても大きな龍が人にのしかかる姿は

恐ろしい以外の何ものでもない。


割と多いのは初代龍王のものだが、その当時は絵や像を作る技術が

足りなく、石版に書かれた絵が主体だった。


しかし、今回映った慧はとても幸せそうで

多くの芸術家がその姿に魅了され多くの作品が献上されたのだ。


実際、どの絵の慧も本当に幸せそうに描かれている。



「慧・・私が思う感情は、羞恥ではなく嫉妬なのだよ。

 こんなに美しい慧を見つめるのは私だけで良いと思うんだ。

 ああ、この部屋には慧が入れないようにしなければならないな。」


リューゼはそう呟くと静かにその部屋を後にした。

扉の所で手を翳すと金色の光が手の平からでる。

これで、慧がこの部屋の前を通っても扉ではなく壁が続いているように

見えるのだ。

「どうせなら、あの部屋・・・慧のコレクションでも置くとしようか。

 よし、当主達や銀の龍にも相談しよう。」

そう呟きながらリューゼは自分の執務室に戻るのであった。




INDEX BACK NEXT 

 Copyright(c) 2007-2010 Jua Kagami all rights reserved.