ルーレンの夜明け

       第84話 水の精霊 ルーラ

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理緒は自分の前に立った男を見あげた。

男はすらっと背が高く、暗い茶色の髪の毛をしており、

目の色は濃い青色だった。

そして、従える者が持つ雰囲気を確かにその男は持っていた。


「君が我が寮の生徒を運んできてくれたのかな?」

「ええ。怪我人には敵も味方もありませんので。」

理緒は、男の目をまっすぐ見あげて言った。


「お礼に君を茶会に招待したい。受けてくれるか。」

「私は名も知らない方の茶会を受けようとは思いません。」

理緒がそう言うと、その男の傍の2人の男が

「無礼な・・・。」

「身の程をわきまえろ。」

と言ったが理緒の前の男が手を出してそれを制した。


「失礼。私はエリック・ワズバーンと言う。

 そうだな。君1人じゃ不安だろうから

 マーロウ教授にもご同席いただきましょう。

 教授、もちろん都合が悪いなどと言われませんよね。」



教授は、コクコクと頷いてどもりながら

「は・・・・ぁぁぁい」と言った。



「折角のお誘いですが辞退したいと思います。」

理緒はきっぱりとした口調で言った。

「断るというのか?」

エリックの横の2人は驚きでパクパク口を開いたり閉じたりしている。


「ええ。私は誰かにお礼を言われようとか

 褒めてもらおうとか思っておりません。

 それに考えてみると、彼らが私を攻撃したのが

 全ての始まりです。

 なのでそんな敵だらけのお茶会で

 ゆっくりお茶なんて飲めません。」


「なるほど・・・それなら、これでどうだ。

 今朝、運ばれた生徒達は急に魔術が使えなくなった。

 その容疑者として連行させてもらう。

出でよ。我が精霊。そしてこの者を捕らえよ。」

すると、男の後ろから闇色の煙が現れた。



それと同時に理緒の前に緋聖が現れ、その手には

黄金の槍が握られていた。

その精霊の目は閉じられているので感覚で動いているらしい。


・・・トラエル・・・

闇色の煙とともに現れたのは水の精霊で

足に枷をされ手に縄のようなものを持っていた。



その縄を理緒の方へ投げる。

縄は生き物のように理緒の方に向かって来た。

・・・誰に向かって来ているのか

   しっかり見なさい。・・・

緋聖はそう呟くと、槍でその縄を避け

槍を綺麗な形で構えると槍はぐんぐん伸びて

精霊の枷をついた。

カキーンと言う金属音と共に

その枷がはずれ、次の瞬間その精霊の目が開いた。



それと同時に精霊は目を見開き、

・・・私はなんということを・・・

と言うと何もない教室に急にザーザー

雨が降り始めた。



精霊は頭を掻き毟って蹲っている。

「おい・・・戻れ・・・。」

エリックが精霊に対し、声を荒げる。

ところが精霊は首をブルブル振って

泣きはじめた。



「もう・・・その精霊はあなた・・・にはしたがいま・・・せん。」

「何を言う!あの精霊は・・俺のものだぞ。」

エリックがマーロウ教授に向かって怒鳴った。


「精霊は物ではない。」

理緒はそう言うと、その精霊の方へ歩き出した。

エリックがそれを追いかけようとしたが

雨が水の壁になり阻まれた。

「おい!その精霊は俺のだ。ルーラ・・ルーラ。」

エリックはそう精霊の名を呼んだ。



理緒はその精霊に近づいて華奢な肩にそっと手を伸ばした。

・・・ごめんなさい・・ごめんなさい・・・

精霊は小さな声で謝罪を繰り返した。

・・・おいで・・・

理緒は微笑んで手を差し出すと精霊は青い光の玉になって

理緒の手に浮かんだ。



それと同時に水の壁が消え

エリックは呆然と立ち尽くした。

理緒の手の平に吸い寄せられるように青い玉が消えると

同時にエリックは膝をついて精霊の名を呼んだ。

「ルーラ。嘘だろ・・・・。気配が消えた・・・。」



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