眠る君へ捧げる調べ 番外編  ’07 クリスマス特別編

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銀の龍の贈り物



〜プロローグ〜

慧から大好きな銀の龍へ・・・

(WEB拍手の再録です。)





・・・慧・・・5歳・・・

「外、真っ白。」

慧は窓から外を見ながら言った。

ここは、蒼龍の国アシュタラの森の中。

ファルは雪が降っているからこそ、探せる薬草があると

朝早くから出かけていた。

「あっちでは、クリスマスの時期だよなあ。

 そうだ。ファルにケーキを焼いてあげよう。」

慧はそう言いながら、食料庫の干した果物の

おいてあるところを開けた。

「とにかく、ケーキだから・・・酒にでもつけてみよう。」

慧は、リュークが来た時に飲んでいた洋酒を開けて匂いをかいだ。

「うわぁ・・・久しぶり・・酒だ。ちょこっと味見・・・。」

慧は、小さなグラスに酒を少し注ぐと口をつけた。



・・・夕方・・・

ファルは、小屋の前で龍の姿から人型に変わった。

小屋には小さな灯りが点っている。

「ただいま。帰りました。」

ファルはそう言いながらドアを開け、そこで呆然とした。

そこには、森の小動物が何匹もいる。

「ケイ?」

不安になって一緒に住んでいる少年の名前を呟いた。

「・・・なあ・・・に〜ぃ・・・?」

妙に間延びした声が聞こえた。

ファルは安心したように慧の方をみて・・・

固まった。

慧は、上半身裸で野生の狼にまたがり、

自分の服をブルンブルン振っている。

「ふぁる〜〜〜かっこいいでしょう?」

慧がにこにこ笑って言う。

「け・・・・けい・・とりあえず、狼から降りて・・・

 動物を森に返してください。」

「おっけ〜〜〜。」

慧はそう言うとドアを開け「まったきてね〜〜〜。」と動物に言った。

ファルはよろよろ椅子に凭れ掛かるように座った。



慧は椅子に座ったファルの膝に上機嫌に乗りファルの頬を引っ張ってケタケタ笑った。

「ファ・・・ファル・・変なかおぉ・・・・。」

「ケイ・・・?いったいどうしたのですか?」

「きゃははっ。」膝の上の慧はさわぐ一方だ。

ふと、ファルの目の端に転がった酒の瓶がうつった。

「原因は・・あれですか・・?」

急に腕の中の慧が静かになった。

見ると、スースーあどけない顔をして眠っている。


・・・・次の日・・・・

「うっ・・・あ・・・頭痛い・・・。」

「ケイ・・薬湯を飲みなさい。」

妙に笑顔なファルが椀を持ってきて言った。

「う・・ん・・・」

慧はその液体を1口飲み「げっ。」と言った。

「ファファファル・・・さん、この薬湯すごい苦いのですが・・・。」

「ケイ、酒を呑んで二日酔いになる人にはとびきりの薬湯ですよ。

 もちろん、全部飲みますよね。」

ファルはにっこりと笑いながら言った。

・・・目が笑ってないよ・・・

慧は涙目になりながらその薬湯を全部呑まされた。






・・・・慧・・7歳・・・・

「やっぱりブライデンは寒いや。

 そうそう。もう少しでクリスマスの時期だな。

 ジークに何か送りたいんだけどどうしよう。」

慧はうーんと唸って考えた。

「寒いと言えば・・あーーーっ。」

慧、何かを閃いたようだ。

「フィリオ・・手伝って!!」

慧は自分の為にジークが用意してくれた小さなスコップを持って

森の中を目指した。


ジークは考えていた。

最近の慧は何かおかしい。

寝るのはすごく早いし、洗濯物は多い。

そして、昼はフィリオとどこかにでかけているらしい。

「フィリオが一緒なゆえ、心配することもないのだろうが・・・。」

そう思いながらも窓の外を気にしている。

夕闇がせまるころになってようやく慧の姿が見えた。

「ケイ、毎日、どこに行ってるのだ?」

ジークが聞いても慧は首をふるばかりだ。


ある日、「ジーク。ジーク。」

慧が外から走ってきた。

ジークは片隅に読んでいた本を置くと

慧がジークの腕を引っ張った。

「ジーク、一緒に来て。」

ジークが黒いローブを着ると慧は早く早くと

ジークの腕を取って森を進んだ。

少し行くと、洞窟が見える。

慧はにこにこ微笑みながらその洞窟に入っていった。

慧の後をついて洞窟に入ったジークは驚いたように

足を止めた。

洞窟の中には泉のようなものがありもうもうと湯気がたっている。

「なんだ?これは?」

ジークが不思議そうに言う。

「温泉・・・。」

慧が胸を張って言った。ナバラーンには温泉に入るという習慣がない。

「温泉?」

「うん。脱いで入ろうよ。」

慧はジークを促しながら温泉につかる。

ジークも慧にならって裸になり温かい湯に足を入れた。

「気持ちよいな。」ジークがそう言うと慧は嬉しそうに微笑んだ。

「良かった。リーガに頼んでここ掘るの大変だったんだ。」

ジークの目は驚いたように丸くなった。

リーガと言えば、熊のように大きくて凶暴な猛獣だ。

「ケイ・・リーガって?」

「うん。ここ。リーガの巣だったんだ。

 だから、他の洞窟に移ってもらった。」

慧はにこにこ笑って言った。

「ケイ、頼むからあんまり猛獣とは仲良くならないでくれ。」

ジークは疲れたように呟いて慧の方を見た。

「・・・って・・ケイ?」

慧は口を半分開けてヘリの岩に凭れてすーすー眠っていた。






・・・・慧・・・・9歳

「ジャン、12月なのに雪降らないよね。」

慧はある日不服そうに言った。

「あ〜〜〜?ここは南の国だからな。雪は降らないな。」

ジャンはそう言って道を急いだ。

2人はアイール中の人の村をめぐる旅の最中だった。

慧は考えた。ファルやジークと一緒の時は何か作ることが

できたが今は旅の最中だ。

「う・・・ん」

慧は考えた。何かジャンにしてあげたい。

「ねぇ。ジャン。何か欲しいものない?」

そう聞く慧にジャンはきっぱりと答えた。

「睡眠がほしい・・ここ数日野宿だろう?」


確かに睡眠は欲しい・・でも聞きたいことはそういうことじゃないけど



慧は、毎日フィリオと散歩するのが大好きだ。

特に綺麗な石を集めるのを楽しみにしている。

慧は集めた石でチョーカーを作ろうとした。

何とかそのくらいは加工できる。

慧は時間があいた時に少しずつ気にいった石を加工して

チョーカーを作った。

ある日できたチョーカーをジャンに渡すとジャンは驚いた顔をした。

「ケイ、この石どうしたんだ?」

「森で拾ったけど・・?他にもあるよ。」

慧は森で拾っている石が入った皮袋を見せた。

「ケイ・・・。これは・・・。」

ジャンはその石がとても高価なのに驚いた。

慧の皮袋には家が軽く数件は建つほどの石が入っていたのだ。

慧は石が高価だとわかると興味なさそうにジャンに皮袋を預けた。






「なんで、冬のこの時期に贈り物と思うのでしょうかね。」

黄龍の宮殿でファルが言う。

「ああ。何でだろうな?」

「いや・・・このチョーカーかっこいいだろう。」

ジャンが首につけている琥珀色の石のチョーカーを見せる。

「いえいえ。あの子が作るフルーツケーキも絶品ですよ」

「いやいや。あの温泉はなかなかのものだ。」

慧自慢を始めるとこの3人の話題は尽きない。

ちなみに酒もつきない。

「今年は私達からケイに何か贈りましょうか?」

「ファル、それはいい考えだね。何にしようか?ジーク。」

「ああ。ケイが喜ぶほうが良いな。」




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