君と僕らの三重奏 番外編 

〜明日に見た小さな灯火〜 −5−

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数日後、岡島は上司の命令で東条コーポレーション本社に呼ばれた。

本当は、その日岡島は辞表を提出しようと思っていた。

しかし、言うタイミングを逃し岡島は指定されたミーティングルームに入った。


そこにいる人に驚く。

東条コーポレーショングループ総帥秘書室長の西條、

次期総帥と言われている東条和道、

そして、西條よりも若いと思われる感じの良い男がいた。

岡島が座ると東条和道が口を開いた。

「西條から、東条家分家の不手際について聞きました。

 貴方と貴方のパートナーに私から謝罪を申しあげます。

 そちらの制裁は東条隆道がしっかりしておりますので

 二度とお二人の前にあの者が現れることはありません。

 本当に申し訳ありませんでした。」

和道はそう言って岡島に深々と頭を下げた。

「もう充分にしていただいております。

 私のパートナーは、確かに精神的にダメージを受けましたが

 また社会復帰したいと申しておりました。こちらこそ、

 有名なセラピストを紹介いただいたり、治療費を負担して戴き

 本当にありがとうございました。」

岡島も深々と頭を下げた。事件のことを知った東条家本家当主

東条隆道にはとても世話になった。本来は、直接係わり合いのない

はずなのに病院の手配からセラピストの紹介、そして加害者から

充分すぎる謝意金も弁護士の手で届けられた。

真実の精神状態から事件を大事にしたくなかったので本当に助かったのだ。

東条隆道には直接お礼を言えなかったがこうして和道に言うことで自分達の一区切りが

ついたように岡島は思った。


「さて。岡島さん。実は今日はあなたを見込んで頼みがあるのです。」

西條が口を開いた。岡島は不思議そうに西條を見あげ椅子に座った。

「実はですね。東条ソフトとは別口で新たな会社を立ちあげまして、

 東条和道を代表取締役に据えたのです。その会社の業務の1つにソフト関連の業務がありまして

 その業務を岡島さんにお手伝い戴きたいのですが。」

「確か東条コーポレーションの中でソフト関連は東条ソフトが一手に引き受けていたと思いますが。」

「疑問は、もちろんのことです。

 ここからは、どうか内密の話にして戴きたいのですが宜しいですか・・・・。」






その日の夕方、早めに帰宅した祐樹を真実は不思議そうな顔で迎えた。

「祐樹、今日は早いね。どうしたの?」

真実は不思議そうに聞いた。

「真実、また私の力になってくれる気はあるか?」祐樹はソファに座りながら言った。

不思議そうな顔をした真実に祐樹は本社での出来事を話し始めた。

「実は、今日本社に呼ばれて西條先輩に会ったんだ。それで、是非今回立ちあげる新会社の

 チーフプログラマーになってほしいと言われた。それで、できたら真実にも参加してほしい

 と言われたんだ。」

「何で、俺?」

「確かにあの事件で会社を辞めなければいけなくなったことも理由のひとつにはあがっていたようだが

 実はそれだけじゃないんだ。以前2人で手がけたプロジェクトの手腕を買われたらしい。

 しかも、人事権、やり方は全て俺らに任せると言うんだ。」

「それおかしいだろ?何かわけがあるのか?」

「ああ、実は俺らの上に上司に当たる人が1人だけいるそうだ。

 でも、その人を表舞台に出すことを西條先輩はしたくないらしい。

 少なくてもこの3年は・・。」

「なんで3年。」

「いや・・・俺も驚いたのだけど、その人は未成年らしい。」

「未成年を上司?うそだろ?」

「いや・・嘘ではないらしい・・そして、その人の作ったソフトを聞いて俺は実は震えた。」

「祐樹・・何でだよ。」

「その人は、キース・バートンの共同開発者だったらしい。」

「キース・バートン?あの?」真実も驚いたように言う。

「ああ、20世紀最後の奇跡と言われ、数々のブランドを確立した天才キース・バートンだよ。」

「ちょっと待って・・・祐樹・・俺興奮してきた。」

それだけ、キース・バートンという名前はプログラマーにとって偉大な名前なのだ。

「西條先輩の話だとまずその人に会って話しを聞いてみた方が良いって。

 明日の午後本社に来るらしいから、真実と一緒に行きたいんだけどいいかな。

 俺は、またお前と仕事したいんだ。」

真実はゆっくりと息を吸い込んだ。

祐樹は、自分を守ってくれるだろう。一緒にまた仕事ができる。

それだけでも真実は本当に嬉しかった。






次の日の昼、本社に行った2人にその上司の秘書である橘という男は苦笑して言った。

「それが、今朝から会社に来て配線作業やっていますよ。

 何でも人任せにしたくないそうで・・・。」

そう言いながらパソコンがたくさん置かれた部屋に案内されると、机の下からジーンズが見えた。

「樹珠愛様。お客様ですよ。」橘が言うと、「はーい。ちょっと・・待って。」と声が聞こえ、

思ったよりも幼い女が這い出て来ると、二人を見て微笑んで言った。

「初めまして。私は楠瀬樹珠愛と申します。これから、よろしくお願いします。」






その日の夜、真実と祐樹は笑いながら部屋に戻ってきた。

「まさか、祐樹。まじめにあんな条件出されると思って無かったよ。」

「クククッ。俺も驚いたよ。」

「まさか、出された条件が「オフィスでエッチしない。キスはOK。」なんて。」

真実は思い出してまた笑った。

「真実・・久しぶりに笑ったな。」

祐樹が優しい目で真実を見つめた。

「ああ。祐樹・・・あきらめなければきっと明日は良いことがあるんだね。

 俺、今日そう思ったよ。そしてありがとうな。祐樹。」

真実はそう言いながら祐樹を見あげる。

「それでは、オフィスで禁じられたことをやろうか・・真実。」

祐樹は、そう言いながら真実にキスを落とした。

(FIN)

 
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