君と僕らの三重奏

       プロローグ

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雨の日は嫌いだ。

あのことを思い出すから。

私を守って亡くなったお母様。

覚えているのは紅・・・

それが自分のものなのか・・それともお母様のものなのか覚えていない。




父様が亡くなった今

もう、私はあの家に縛られることはない。





キース、ようやく貴方の死亡診断書を書くことができた。

貴方の仕事も頑張って何とかこなしてきたよ。

もう・・・いいよね。

キースは2人だから寂しくないよね。

キースが私に残してくれた教育プログラムはようやく先月終わったよ。

これは、貴方の最期の贈り物だったんだね。

それでも、まだまだ貴方に追いつかないだろうな。





慎吾、貴方が求めていたこと少しはできるようになった。

貴方の理想の女性に近づいたかな?

私は、これから日本に行く。慎吾の故郷。

そして私のお母様の故郷。

私は、貴方が望んだように普通の生活を体験するよ。





お母様には義理の兄がいたんだ。

先日連絡したら私を引き取って後見人になってくれるって。

だから、行くことにした。






キース、慎吾。

私の大切なお父さん達って言ったら

キースはしかめっつらするだろうな。

慎吾は苦笑しながら光栄だなんていうだろうね。



私をずっと見守っていてね。

そして、安らかに眠ってください。







樹珠愛は白い薔薇の花束を冷たい石の上に置き、しゃがんだまま手を合わせた。





「樹珠愛様、飛行機のお時間が・・・。」

振り返ると後見人の秘書だと言う男が申し訳なさそうに立っていた。



「いいです。行きましょう。

 それと・・・橘さん、ここに寄ってくれてありがとうございます。」

樹珠愛は、立ちあがって頭を下げた。

「いえ。樹珠愛様。気になさらないでください。 あの・・・私も参らせてください。」

「ありがとう。橘さん。」

樹珠愛が静かに墓の前からよけると、男はしゃがんで手を合わせた。

1月の初旬らしいとても寒い日だった。


 
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