慧×理緒×祐 WEB拍手お礼編
  
  
   文化祭の思い出
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あれは僕らが高校生で、

甘えられる家族がいて

大切な友達があたりまえに傍にいた頃の夏の1日。



理緒が久しぶりに登校すると、学校では文化祭の準備が始まる頃であった。

理緒達の担任は熱血漢で、お祭り好きだ。

「俺のクラスが何も賞を取らないなんてありえないからな。

 とにかく、賞を取ること。」



「先生。文化祭で賞って何ですか?」

田中祐が手を挙げて聞く。

「模擬店は売上対決だな。しかし何と言っても、一番目立つのは

 前夜祭のMr&Missコンテストだ。

 そして、俺は今年は部門賞も狙えると思っている。」

担任は期待するような眼差しを理緒と慧に向ける。



担任の眼差しを追ったクラスメイトはなるほどと頷いた。

「と・・言うわけで、斎藤理緒がミスターで佐伯慧がミスコンでいいな。」

「「えええ〜〜〜」」

2人がガタッと立ち上がると同時にクラス中から拍手をされ、強制的に

理緒と慧の役割が決まったのだった。



ピアノ馬鹿な慧は体型は華奢とは言えないが顔つきは女顔で優しい顔だちだ。

一方の理緒は、鍛えているせいで身長も高く日焼けして男らしい。

素晴らしく大柄なカップルになるが期待は持てそうだとクラスの皆は思った。



生徒会からMr&Missコンテストの詳細が出た。

どうやら、このコンテストはクラス対抗のステージ発表も含まれており、

劇仕立てOK、ファッションショーものOKの何でもありのコンテストらしい。

与えられる賞も、Mr&Missの最優秀賞・ナイスカップル賞・ナイス脇役賞

ユニーク賞などがあり、それぞれの賞には学食無料券などの副賞もついてくるのだ。

なので、3年生や2年生などのクラスではかなり前からそのコンテストに向け

準備をしているようである。



だから、クラス委員が参加した会議でも1年生は軽く扱われクラス委員長は悔しそうに

上級生の様子をクラスで報告したのだった。

学校では、1年のクラスは3年間一緒なので、当然3年生は一番有利でチームワークもある。

でも、類は友を呼ぶのかどうかはわからないが担任をはじめとしてクラスメイトは

負けず嫌いが多く、上級生に馬鹿にされたと聞いた途端に俄然やる気を出し始めた。



特に3人の仲で一番負けず嫌いの理緒はとんでもないことを言い始めた。

「先生がこの前前夜祭のMr&Missの最優秀賞・ナイスカップル賞の3冠はいままで

 無かったと言ってたな。よし!!俺は、3冠を狙うぞ!!」

そう言いながら目線を祐に移してにっこりと微笑んだ。



「おっ。ここにナイス脇役賞もいた。」

「お・・・・おおおれ?」

「よしっ!!慧も祐も今日から泊まりこみだ!委員長、俺すごい案を考えた。」

「何だい?」

理緒は委員長と顔を突き合わせて小声で語り始めた。

「おお〜〜それはすごい。確かに作るのはちょっとしたセットだけだな。

 それなら・・狙えるかも・・・後は3人の演技しだいか?」

「ああ。大丈夫。俺の家に泊まりこみするから。あっ。祐、慧待てよ。」

理緒は満面の笑みで教室を出ようとしている2人の襟首をつかむと

ずるずる引き摺って廊下の向こうに消えた。



「ご愁傷様・・・。」委員長はそう呟くと後ろを振り返って言った。

「野郎ども、セットを作るぞぉ!!」委員長もとことん体育系であった。






「俺・・ピアノの練習・・・。」

「はい、慧君、今行くところにはピアノもあるから引き放題だよ。

 しかも、防音だから手が空いたらいつでも大きな音でピアノ弾けるよ。」

「ほんと・・?理緒?」

慧は少し顔を綻ばせて言った。


「あ〜〜〜。祐にはこの前、欲しいと言っていた

 サバイバルナイフやるぞ。」

「えっ?本当か・・・?」

祐も陥落するのは早かった。





・・・本番前・・舞台裏・・・

「慧・・・俺、嫌だぞ。」

祐が泣きそうな顔をして言った。

「正直、俺も嫌だよ。

 でも、そんなことしたら理緒と保護者’s追っかけて

 来るよ。あの黒い満面の笑みをたたえてさっ。」

慧が小声で言う。

「まさか、理緒の両親や慧のおばさんまで出てくると思わなかったよ。」

「ちなみに皆さんの為に理緒張り切って特等席取っていたよ。」

「だって、詐欺だろ。あれ。義哉さん(理緒父)が

 個人的にスタジオ持っているなんて知らなかったし。

 まあ、あの人は何でもありだけど・・・。

 ここ数日俺はほとんど寝てないぞ。

 その間、慧の伯母さんが衣装作っているし・・。」

「俺も寝てないよ。伯母さんも張り切ってピアノのレッスンするんだもん。

 疲労回復にって美香子さん(理緒母)が笑顔で栄養注射出した日には・・・。」

「無駄に人体知っている親子って嫌だあ。」

祐はそう行って机につっぷした。






・・・本番・・・

ステージが明るくなるとピアノの音色が流れる。

それに合わせて仮面をつけた男女?がステージの真ん中に集まる。

ステージの袖から、祐が現れパートナーを探すが振られる。

しまいには、誰かに人形を渡されると、曲がコミカルな曲になり

祐は人形と踊りだす。しかも、向きを変えると人形が男に

祐の左半身は女になる。会場は大爆笑の渦だ。

無駄に上手なターンが余計、笑いを誘う。



祐がステージの袖に戻ると、ステージが暗転して、

仮面をつけた男女がステージの横に別れると、

真ん中に仮面をつけてピアノを弾いている女が現れる。

すると、ステージの袖から長身の男が現れピアノを弾いた女の手を取り

ステージの中央まで優雅にエスコートする。



ステージの真ん中で優雅なお辞儀をすると2人は完璧なステップで

踊りだし、最初のターンを決めたと同時に仮面をはずす。

すると、会場のあちこちから溜息が漏れた。

慧は、しっとりした女装で、どこから見ても女の人のように見える。

そして、理緒は片手で軽々と慧を支えて踊る姿は貴公子と化している。

クライマックスで慧を大きく上に抱きあげても顔は余裕の笑みを浮かべている。

理緒達のステージは拍手喝采でその幕を閉じた。





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・・・・ナバラーン・・・・

「慧はダンスが上手だな・・・。」

リューゼが慧を見事にエスコートしながら言った。

「まあ・・・昔死ぬほど練習したからね・・。」

慧は遠い目をして言った。

「慧の最初のダンスの相手になれなくて残念だよ。」

リューゼはそう微笑みながら見事にダンスのリードをする。

今日はリューゼ主催の舞踏会で、慧はヒラヒラの洋服を着て

リューゼとダンスを踊っている。

「だって、向こうの俺は、今みたいに小柄じゃないから

 リードするのも大変だと思うよ。」

「ほーーーっ。慧は私の力を過小評価しているみたいだ。

 今宵が楽しみだな。」

リューゼはそう言いながらにっこりと微笑んだ。

「リューーリューーゼさん、そういう力の現し方結構ですから・・・。」

慧があわてて言うとリューゼは壮絶に微笑んで言った。

「楽しみだな。それを考えると今宵の宴も楽しめる。」

慧の今夜の運命は決まったようだ。





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・・・・ルーレン・・・・

「リオ、眠れないのか?」

夜が更けてテラスに座って星をみつめている理緒の肩に

上着を掛けてデュアスが言った。

「うん。ふと・・向こうの世界のことを思い出していた。」

デュアスは黙って理緒の隣に座った。

理緒は、向こうの世界でとても幸せだった。

両親は無条件に自分を愛してくれたし、親友の祐もいた。

だから、時々無性に皆に会いたくなる。

「そう言えば、高1の学祭の時、慧と踊ったな。」

「学祭?」

「向こうの学校のお祭りの日、俺の高校男しかいなくて

 慧と言う友達と祐と言う友達と一緒にコンテストに出て

 優勝。そして勢いづいて、1年生なのに模擬店でも売上部門で優秀したんだ。

 楽しかったな。」

「リオは何をしたんだ?」

「女装した慧と踊ったんだ。あの時は練習したなあ。」

理緒はせつなそうに夜空を見あげた。

デュアスはそんな理緒の肩を抱きしめて言った。

「まだ、夜は長い。色々な思い出を聞かせてくれ。」

理緒はデュアスの紫色の目をみあげてにっこりと微笑んで頷いた。

星が瞬く美しい夜の事だった。




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・・・地球・・・12年後・・・


「退屈だな。」祐はダンスパーティの会場を後にした。

この南の国では娯楽が少ない分、このようなダンスパーティが

よく行われる。この島は、祐が属している私設軍隊の本拠地の島で

この軍隊、通称「Midnight Sun」は国家や組織の依頼で組織をつぶしたり、

麻薬密売を根絶やしにしたりする組織だ。

外人部隊にいた祐は1人の男と出会い、数人の同志や巨大なバックアップとも言える

協力者達と共にこの組織を作った。

今は、この組織の要であるこの島を統括し、武力介入の作戦をたてると言う

重要な役割を担っている。


祐は、パーティの会場からゆっくりと自分に宛がわれた宿舎の部屋の方へ歩いた。

この島の宿舎は、軍の宿舎と言うより、お洒落なマンションのような造りになっており

祐の住む幹部用のマンションもレンガ造りの洒落た建物だ。


祐は、マンションに入ると、組織の引越し業者が何人も出てきた。

「そう言えば、優秀な医者が来ると言っていたな。」

祐はそう呟きながらエレベータのボタンを押した。



自分の部屋のある階に着くと、空き部屋だった部屋から

1人の男が出てきた。

その顔を見た祐は思わず自分の持っていた鍵を落として言った。

「義哉さん。」

男も驚いた様子で「祐。」と言って、自分の入ってきたドアを開けて

中に入るように言った。



祐が部屋に入ると、ぽややんとした女の人が驚いたように祐の顔を見た。

「美香子さん、お久しぶりです。」

祐がそう言うと、美香子は祐に抱きついて

「祐君、すっかり大きくなったねぇ。理緒も・・・。」

と涙をぽろぽろ零しながら言った。



祐は美香子を抱きしめながら居間の壁に飾られたばかりのフォトフレームの1つを見つめた。

それは、自分も持っている理緒と慧と自分が肩を組んで笑っている学園祭での写真だった。


・・・ああ、理緒と慧は確かに存在していたんだ。・・・

祐の頬を涙が一筋濡らした。







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