慧×理緒×祐 WEB拍手お礼編
  
  
   初夏の思い出
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あれは僕らが高校生で、

甘えられる家族がいて

大切な友達があたりまえに傍にいた頃の夏の1日。


久しぶりに理緒の家に来て、一緒に宿題を終えた3人に

妙な笑顔でアイスコーヒーを持ってきたのは理緒の父義哉だった。

義哉を見た時点で、理緒は軽く腰を浮かせ、祐は真っ青になり

慧はそんな2人を見て首を傾げた。



「いやぁ。ちょうど良かった。3人にお願いがあるんだけどなあ。」

「なななな・・んですか?」

思いっきりどもりながら祐が言った。


「いや・・・。今夜いつもお世話になっているお嬢様達が

 遊びに来るのだが、せっかくだからちょっとしたお土産を

 渡そうと思うんだ。

 だから、3人のセンスで買って来て。じゃあ、車だすなぁ〜〜。」

そう言って義哉は部屋を出て行った。


「相変わらず・・俺達の意見きかねぇなあ。」

祐はアイスコーヒーをぐっと飲み干すと絨毯の上に置いていた

財布と携帯を尻ポケットに突っ込んだ。



理緒もやれやれと言いながら、着替え始めたので慧も

急いでアイスコーヒーを飲んだ。

車に乗ると、義哉がタバコを咥えながら聞いた。


「どこまで、行く?」

「赤レンガかな?」理緒が答えると、

「まあ、無難だな。ちょっとしたもので良いから

 これで、よろしく。まあ適当に数人分買ってきて。」

と小物入れから千円札を出して理緒に渡した。

「そうは言っても、女の人のことよくわからないよ。」

慧が心配そうに言う。

「無難に品物だけ決めといたほうが良いかな?

 俺たち男子校だしな。」

祐もそう言う。

「じゃあ、無難に携帯のストラップでどうかな?」

「あっ。それいいかも。」理緒が言うと慧もすぐ賛成した。

結局、現地で3人は別れて買おうと言う事に決めた。




・・・結城 慧・・・

「何だか綺麗なオルゴールの音がする。」

慧は、2人と別れてからオルゴールの音に誘われて別の建物に来た。

「ああ、あそこがオルゴールの工房になっているんだ。」

慧の目の前で夏休みを利用して来たであろう親子連れが

一生懸命オルゴールを作っていた。

階段を下りると、そこは大きなガラス工房で

いろいろなガラス製品が可愛らしく置いていた。

その前で、1人の男の人が熱心にガラスを見ていた。


大きな体つきで目つきが鋭いが何だか選ぶ目つきが真剣だ。

慧も店の中に入って商品を見始めた。

「わっ。綺麗なコップだな。」

ガラス工房だけあって綺麗なグラスがたくさん並んでいる。

慧の独り言に男は目をあげてそのグラスを見つめた。

男は慧を見て口を開いた。


「その・・・君くらいの年の子はこういうものを貰っても嬉しいのか?」

「俺なら嬉しいです。」慧はにっこり微笑んでそう言った。

「じゃあ、それにしようかな。」男はそう言ってそのグラスを取った。

「あの?」慧が男を見あげて言った。

「何?」男は不思議そうに聞いた。

「恋人のものでしたら、あなたのコップもあったほうが・・。」

慧は男の眼力に物怖じしながら続けて言った。

「お揃いって、嬉しいと思いますよ。」

「そうか。ありがとう。」男は目を細めて微笑むと

もう1つ商品を掴んでレジに向かった。

「あっ。これ可愛い!」

慧はその近くにあった唐辛子の赤いストラップを手にとって微笑んだ。




・・・斎藤理緒・・・


理緒は、土産物店のストラップ売り場で真剣な顔をして

ストラップの掛かっている箱をぐるぐる回していた。

「早く探して、バーガー食べよう!」

理緒はそう思いながらストラップを見ていた。

「おっ。これは・・。」

理緒は牛のストラップを取り、関節を動かすと満足そうに頷いて

レジに並んだ。


「あの〜〜。お客様・・・困ります。」

目の前の客を応対する店員が困ったように言う。

「What?」

客はどう見ても外国の人のようだ。

ブラウンの髪をしている。

「当店は、日本円のみで・・・。」

店員さんもおどおどしながら日本語で説明する。

理緒はトレーの上に置かれた札を見て目を見開いた。



「ドルにポンドごちゃ混ぜかよ。」

そう日本語で呟いて前のお客さんに英語で話しかけ、

5千円を差し出した。

『俺、両替しますよ。』

客は驚いたように理緒を見て言った。

『ありがとう。助かったよ。手数料も取って。』

『いいえ。俺使う機会あるから。』

理緒はそう言いながら、大体の相場のドルとポンドの紙幣を取った。


『助かった。娘にどうしても買いたくってね。』

客はそう言うと、大きなご当地版のぬいぐるみの包みを持って店を後にした。

「あーーもう少しで時間だよ。バーガー逃したよ。」

理緒は店員さんから袋を受け取るとそう独り言を言いながら店を後にした。




・・・・田中祐・・・

「しかし、腹減ったなあ。」

祐は、食べ物屋を探して建物の中を歩いていた。

「でも、小遣い使ってしまったんだよなあ。

 あっ。この近くにコンビニあるから焼き鳥弁当でも食べようかな?」

祐はそう独り言を言うと近くのコンビニに入っていった。



ここのコンビニは、温かいごはんの上に焼きたての焼き鳥をのせてくれるのだ。

「どうしよかなあ・・中にしようかな・・でもお金ないもんな・・・」

ドキドキしながら、祐はレジに並んで自分の順番を待つことにした。

すると、祐の前の男の人が「やきとり弁当の小20個。急いでくれ。」

と注文した。



「お客様・・・しばらく時間がかかりますが・・・。」

店員が慌てた調子でそう言う。



・・・ちぇっ。これじゃ食べれないな。・・・

祐は小さな溜息をつくと踵を返しコンビニを出た。

「真面目にストラップ探そうかな。」

祐は小さく呟いて土産物屋に入って行った。



でも、頭の中は弁当・・弁当・・弁当・・・

結局選んだストラップも駅弁ストラップであった。

祐が土産物屋を出ると、男が目の前に現れて

「やる。」と言いながらやきとり弁当を差し出した。

「えっ・・。」祐は驚いたように目の前の男を見つめた。

「さっき泣きそうな顔してコンビニから出て行ったろう?

 1個やる。」男はそう言って弁当を差し出し、祐が受け取ると

踵を返した。


「あの・・お金・・・。」

祐がそう言って顔をあげたときはもうその男はいなかった。

「ま・・いっか。」

祐は、近くのベンチに座り、器用に弁当のやきとりの串を抜くと

小さな小袋の紅しょうがを開けて弁当の上に散らすと一口頬張って言った。

「うまい!」

祐はにっこりと微笑んで青い空を見あげた。









待ち合わせをした3人は、それぞれ買ったものを披露し始めた。

「慧のは、ガラスのストラップなんだね。」

「うん。ほら、この小さな唐辛子のストラップ可愛いだろう?」

「慧らしいよな。人生にもちょっとしたスパイスを!って感じ?」

「理緒。そのキャッチフレーズ受ける〜〜〜。」祐が笑って言った。

「そういう、理緒は?」

「ああ。俺はこれ。」理緒は牛のストラップを取り出す。

「な・・んか、個性的だね。」慧が言うと理緒が嬉しそうに牛の関節を動かしながら

言った。

「これ、関節動くんだぜ。」

「慧・・こいつ、これ系好きなんだ。」

慧の耳元で祐が小声で教える。

「そう言う、祐はどんなの買ったんだ?」

理緒が聞くと祐がポッケからストラップを出す。

「カニ弁当?」

「弁当だよね?」

理緒と慧はそう言いながら凝った作りの弁当ストラップを見はじめた。

「しょうがないだろ?腹減ってたんだから。」

祐がふてくされたように言うと。2人は顔を見合わせてぷっと吹き出した。





・・・・余談・・・・その1

「ただいま、戻りました。和道様。」

「おぅ。出張お疲れ様。」

「和道様にお土産ありますよ。」

と西條は和道に紙袋を差し出した。

和道はがさごそラッピングを取って嬉しそうに目を細めた。

「綺麗なグラスだな。」

「喜んで戴けましたか?」

「ありがとう。うん?2個?」

「えぇ。和道様とお揃いも良いかと・・・。」

「早速使おう。」

嬉しそうにキッチンに走って行く和道を見て

西條は慌てて声を掛けた。

「和道様、お酒はいけませんよ。」

「ちっ。」


・・・・余談その2・・・

「ただいま。シン・ジュリア。」

「お帰り。キース。」

「キース。お帰りなさい。」

キースは微笑みながら愛しい人と小さな子供を抱きしめた。

「どうだった?仕事は?」

「ああ。今回は、意外な所で旧友に会ってね。」

キースはダイニングの椅子に座りながら言った。

目の前にコーヒーのカップが置かれた。

「旧友?」

「ああ。ヨシヤと言う医者だが投資家。」

「そうなんだ。良かったね。」

「あっ。ジュリア。お土産だ。」

キースは大きな包みを樹珠愛に渡した。

開けると大きなぬいぐるみが入っていた。

「ありがとう。キース。」

樹珠愛はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめてから

キースの頬にお礼のキスをした。


・・・余談・・・その3

「龍星。いや、リューゼ。楽しそうですね。」

「ああ、イツァークか・・。」

リューゼの分身である龍星がグラスを傾けながら言った。

「お目当ての方でも見つけたのですか?」

「いや。今日の昼、出版社の支社に弁当を差し入れたろう?

 その時に俺の後ろにいた子が泣きそうな顔をしていてな。」

「えっ?何で?」

「用事でもあったのか、たぶん沢山の弁当を頼んだから

 時間が無かったんだろうな。」

「それで?」

「あんまり可愛そうだから、帰りに1個分けてやったんだ。

 嬉しそうな顔してなあ。早速開けて食べていた。」

リューゼがクツクツ笑いながら言った。

「それは・・それは・・・。」

「綺麗な魂している子供だったな。」

リューゼはそう言いながらグラスを空けた。









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