慧は久しぶりにピアノを奏でていた。
もうそろそろ、やめようとした時にリューゼが部屋に入ってきた。
「慧のピアノはやはり素晴らしい。
そう言えば、カノンにもピアノ教えてるんだって?」
「うん。カノンはとても覚えるの早いよ。
やっぱり紫龍からかな?」
「ルネが慧の教え方がうまいからだと言っていたぞ。
ピアノ教えるのは経験あるのだろう?」
慧はふと考え込んで眉間に皺を寄せた。
「どうした?慧?」
「ああ。何で忘れていたんだろう。
そうずっと昔、俺が日本にいた時の高校の時、
理緒っていう友達がいて、良く昼休みに音楽室でピアノを
教えていたなあ。」
「昼休みにピアノ?」
「ああ、初めは、俺あんまり学校に慣れなくて
昼休みはずっと音楽室でピアノ弾いていたんだ。
でも、ある日俺がピアノを弾こうとしたら
背の大きい奴が牛乳とパンを2人分持って来て
俺に言ったんだ。」
「何て?」
「この牛乳とパンをあげるからピアノ教えてくれって。
母親がピアノ教室に1年分授業料を納めてレッスンを
受けてそれを息子に押し付けたんだって。
俺その話がおかしくて、そいつ理緒って言うんだけど仲良くなったんだ。」
「そうか。慧にもそんな良い友達がいたんだな。」
「でも、ある日、理緒がいなくなって、それからあいつのこと忘れていたみたいなんだ。」
「慧・・・。」
リューゼは慧の額に手を当てると慧の記憶を探って理緒を見て「ほうっ。」と言った。
「どうしたの?リューゼ?」
慧は不思議そうにリューゼを見あげた。
「慧・・どうやら、理緒は別の世界に行ったらしい。
これは、予感だがきっといつか会えるよ。」
リューゼはそう言って微笑んだ。
慧も嬉しそうに微笑む。
「でも、良かった。理緒のこと思い出して。
本当に良い友達だったんだ。」
「そうか、じゃあ、茶でも飲みながら話を聞こう。」
リューゼはそう言うと慧の肩を抱いて部屋を出た。
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