ナバラーンシリーズ短編集
  
  王城の朝
   
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王城は基本的に眠らない。

紅龍が主体の兵が24時間警護に当たっている。

ナバラーンの軍人にとって近衛兵になるということは

光栄なことで、人気の職業である。



今日も近衛兵が交代の儀式をしている頃、

厨房では、多くのシェフが朝食のパンを焼き、下ごしらえをはじめる。



その頃、子供の寝室から、紫の髪の子がとことこ走り出てきて

寝巻きのまま、銀龍の紫龍ルイの部屋に入る。

「ルイお父様。おはようございます。」

礼儀正しいのは日ごろのファルとニコライの教育の賜物である。

「カノン、おはよう。早いね。」

紫龍の銀龍であるルイはカノンに服を着せ、椛のような小さな手を握ると

王城の廊下にでて歩くと、カノンはトテトテ走って、無邪気にちょうど扉を開けて

出てきた紫龍の当主、ルネに抱きついていった。

「ルネ様。おはようございます。」

「おはよう。カノン。」


ルネは、カノンを柔らかく抱きしめ肩車する。

カノンは、3人で歌を歌うのも好きなのだが、普段子供達に平等に接する為に

あまり甘やかしてくれないルネがこうして甘やかしてくれるので

朝早く起きるのがとても楽しみだった。


3人は、音楽室に入ると温かい薬草茶を飲んで喉を潤し、

発声練習をしていると、音楽室の時計が6時になった。

すると、3人は美しいハーモニーで朝の歌を歌う。



この朝の歌は王城全てに聞こえるようになっていて

その声で多くの人が起き出すのだ。



子供部屋では、目覚めが良い三つ子のヘルメス・クロノス・アレスが

ベッドから飛び降りて、急いで着替えると

顔を洗って、城の中庭に走って出て行く。


そこには、紅龍の当主ガイと銀の龍アルと近衛兵が数人待っていた。

「「「おはよう。ガイ様。アル父様。」」」

三つ子はそう言って挨拶すると、朝の鍛錬に参加する。


とは言っても、元々戦闘の才能があるアレスと黄龍でありそれなりに

戦闘の技術が必要なヘルメスはかなり手馴れたものでもう刃を潰した

刀を持って鍛錬しているが、元々武道派ではない桜龍のクロノスは

あまり進まない。だから、アルが紅龍の女が主に使う護身術を

クロノスに教えている。


一方のガイは豪快に何人もの兵隊と共に朝の鍛錬をしている。

「いくぞ!アレス!」

「まけないぞ!ヘルメス!!」

可愛いチビ戦士の姿を王城の中庭を通る人々が微笑ましく見ていた。




その頃、白龍の子、シュウが着替えて銀の龍であるサイシュンの部屋に行く。

部屋に入ると、部屋の外の小さな厨房からサイシュンが顔を出した。

「おはようございます。サイシュン父様。」

「おう。おはよう。チビ助。」

サイシュンはそう言ってキッチンに戻る。

シュウは、エプロンをつけると綺麗に手を洗って

サイシュンの隣に行って菓子作りを手伝う。


サイシュンの作る菓子は、王族のお気に入りなのだ。

今日は、白龍独自の饅頭を作るようで、鍋には既に

あんこが出来上がっていた。

サイシュンは、シュウの手を取って饅頭の包み方を教えてくれた。

ちょうど、饅頭が蒸しあがった所に、

白龍の当主、リンエイが現れ、朝のお茶が始まる。


ここで飲むお茶は、白龍独自の変わった匂いのお茶で、

他の龍は苦手らしい。

ちなみに、龍妃である慧も時にはこのお茶会に混ざるが今日は来ないようだ。


「リンエイ様、昨日ちゅうおうほうのことをバルドル兄様に読んでもらったのですが・・・。」

小さな頃から、このような硬い話を好むのも白龍ならではである。




シュウがお茶している頃、ハルは中庭のはずれにある大きな池で

翠龍の銀龍アハドと当主イツァークと泳いでいた。

翠龍であるハルは、1日に数時間水に浸かっていないと体に悪いのだ。

この王城の池は地下で遠い海と繋がっているから翠龍にとって

癒しの空間になっている。


イツァークが「ハルあまり深く潜るなよ。」と言って水に浸かっている。

ハルはニコッと白い歯をだして微笑みながら頷くと

バシャバシャ水を蹴る。


もう少しで朝食の時間になるので、アハドが池から上がり、

大きな布を持って来て「ハル、陸にあがれよ。」と言うと

ハルは陸にあがって、アハドにぎゅっと抱きつくとアハドは大きな布で

ガシガシとハルの頭を拭いた。




「お兄様、御本読んで。」

早く起きて今日も図書室で本を読んでいた

蒼龍であるバルドルに綺麗な金髪の男の子、リューレが

本を持ってきた。リューレはまだ小さいので、字が全部読めないのだ。

「おいで。」

バルドルが自分の隣を少し開けるとリューレがにっこり微笑みながら

隣の椅子によじ登る。


「しそさまとりゅうひのこい・・・」

バルドルが優しくリューレに読み聞かせ始めた。





その頃、子供部屋に大きな黒いマントを羽織った闇龍の銀龍、

ジークが入ってきた。

ベッドの上には闇龍の子レイがスースー寝ている。

レイの隣に寝ていた。聖獣の赤ちゃんがジークを見て

ピーピー鳴きだした。



ジークはレイを自分のマントの中に入れると優しく揺り起こす。

「レイ・・レイ・・・朝だぞ。」

闇龍の子は目を開けるときは暗い方が安心する。

いきなり明るいところで目覚めると目を悪くする危険性があるので

毎朝こうして、ジークが起こしに来るのである。


「おは・・よ・・ジー・・と・・さま・・・」

マントの中でレイがもぞもぞ動いてようやく目を覚ます。

「レイ・・・聖獣に餌やりに行くか?」

ジークが言うと、マントの中のレイはまだ目が開かない様子で

「い・・・く・・・。」と言った。

ジークはそのままマントの中のレイを抱き上げると聖獣を飼育している方へ

歩いて行った。





ちょうどその時、龍王の寝室では慧がブツブツ文句を言っていた。

「何で、私だけこんな着飾らなきゃいけないのさ。」

そう言うと、メリッサが

「ケイ様、いつも申しておりますが、あきらめも肝心ですよ。」と

言いながら、髪にキラキラした飾りをつける。

「まあ、スカートじゃないだけいいけど・・・。」

慧はそう言いながら鏡に映った自分に小さく溜息を漏らした。


慧の支度が整った頃に、リューゼが朝の執務から戻り

「綺麗だよ。慧。」と微笑みながら慧にキスの雨を降らした。

そう言われると、まんざらでもない気持ちになれることが不思議だ。

リューゼは、慧の腰を抱いて寝室を出た。







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