眠る君へ捧げる調べ 番外編
  
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ある夜、ルイは慧が小さく呟くのを聞いた。

「そろそろ・・花見の時期かあ。」

慧は、思い出していた。



数少ない龍星との思い出。

「ちょうど・・今頃だったよなあ。」

一緒にドライブして、花見をしてお団子を食べて

そして、その夜初めて抱かれた。

その思い出はとてもとても大切な思い出で、

そして、その後のことを考えると

とてもせつない思い出だ。



「きっと、リューゼと一緒にいることができたら

 いつかは笑って話せるようになるんだろうな。」

慧はそう呟きながらせつなそうに微笑んだ。



ルイは、その姿を見ると静かにドアを閉めて

廊下をパタパタ走って銀の龍達が

集まっている部屋に入って行った。


ルイの話を聞いてニコライが言った。

「そう言えば、ケイ様は桜の木に特別の思い入れがあるようです。」

「それはどうして?」サイシュンが聞く。

「私が桜龍になる修行の時、初めて桜の木を具現化した時、

 ケイ様はそれは素晴らしい景色をイメージなさったのです。

 桜の木が何本もあって、向こうには海がキラキラ光っていて・・・。

 それをみたケイ様は本当に嬉しそうで、そして同時にとても

 せつない顔をなさっていました。」


「そう言えば、親父に聞いたことがある。ケイがいたところの桜は

 美しいと。」アハドが思い出したように言った。



「あのさっ。俺良いこと思いついちゃった。」

ジャンが突然そう言って皆に話し始めた。

「え〜〜〜・・・あの方たちも?」ファルが厭そうな顔をして呟く。

「まあ、ファル、気持ちはわかるが・・・。」ジークがファルを宥める。



数日後の朝、キッチンから美味しそうな香りが漂っていた。

「ほら、卵焼きできた。」サイシュンが手際よく料理を作っている。

エプロンをかけたルイが器にせっせと料理を盛り付けている。

「ねえ、サイシュン。」ルイがサイシュンを見あげた。

「ん?」サイシュンはフライパンを持ったままルイを見た。

「ケイは喜んでくれるかな?」

「ああ。きっと喜んでくれると思うよ。

 そろそろケーキも焼けた頃だな。」

サイシュンはそう言いながらオーブンを開けた。

「でも、サイシュンの趣味が料理だって思わなかったなあ。」

「そうか?」

「口調も違うし・・・。」

「ああ。外用は訓練受けているからなあ。

 ずっと丁寧口調だと疲れるだろう?」

「でも、ニコライは違うよ。」

「ニコライはもう敬語が染み付いたという感じだよな

 ルイ。ゼリーの飾りつけ任せるぞ。」

「うん。あっ。この小さなゼリーは?」

「それは、ルイの味見用。ほら、食え。」

サイシュンは小さな匙をルイに手渡した。




「ジーク、お疲れ様です。」

「うまく、いったな。」

ジークは、目を細めていう。

「ええ。結構広い場所だったので・・・。」

「綺麗だな。この景色を独り占めするのは贅沢だな。」

「本当に・・・。アハド、後は任せました。」

ニコライは微笑みながらアハドの方を見た。

「ああ。任せろ。ジーク、引き続き頼むな。」

アハドは、そう言いながらジークとニコライに

傘を差し出した。


2人が傘をさすと、アハドはまず小雨を降らせる。

風が小雨を運び周りがキラキラと光った。

「さすが、翠龍だな。」

ジークが呟いた。

「ああ・・・虹ですよ。」ニコライが空を指差していった。

とても綺麗な虹が空にかかっていた。

「ケイは、喜ぶだろうな。」満足そうに微笑みながらジークが呟いた。





「後は、酒だけですね。」

店から大きな荷物を抱えたジャンにファルが言った。

「ああ。そうだな。」

2人は近くの酒屋に入って行った。

「お客さん、何が欲しいのかい?」

酒屋の主人がそう聞く。

ジャンが口を開こうとしたのをファルが抑えるようにして言った。

「高くて強い酒10本と安くて強い酒20本。それから、フルーティな酒2本下さい。」

ジャンが小声で言った。



「高い酒30本じゃないのかよ。」

ファルはすました顔で言った。

「いいんですよ。どうせ高い酒で酔えば味なんてわからないんですからね。

 どうせ、あの方たちに飲ませるんだからいいのですよ。

 本当、わが子をこき使うのにはたけているような方々には・・・。

 それよりも、ケイの為に果実水でも買いましょう。

 この近くに評判の出店があるらしいので・・・。」


(ファルだけは敵には回したくない。)

ジャンは心の中で強く思いながら、酒瓶の入った袋を下げてファルの後に続いた。




「珍しいね。フィリオ。午前中誰にも会わないなんて。」

慧はのんびり本を読みながら言った。

フィリオも慧のそばでのんびりと昼寝をしている。

「慧ちゃん。慧ちゃん。」

慧は入ってきた人に驚く。

「イツァーク。」

慧はそう言いながら嬉しそうにイツァークに抱きついた。

イツァークに連れられて中庭に来た慧は思わず

足を止めた。



そこには、リューゼと一緒に花見に行ったあの公園と

同じような風景が広がっていたからだ。

「ここは・・・?」

「さっきまでジークに結界を張ってもらって作ったのですよ。

 私とアハドの力作です。」ニコライが微笑みながら言った。

「ケイ、こっち来て座って・・座って。」

ルイが手招きをしている。



そこには金の当主たちと銀の龍が座っている。

慧は嬉しそうに駆け寄り敷物に座った。





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